カウンセリングと真心(まごころ)
記事カテゴリ:雑感記事
今回は真心(まごころ)をテーマに、カウンセリングについて述べてみたいと思います。心理カウンセリングについて私の考えを述べていますが、心理カウンセリングに関心がおありの方の参考になるのではと思います。御一読頂けたら幸いです。
ちなみに、タイトル画像の花は、コスモスです。花言葉は「乙女の真心」だそうです。
【カウンセラーに対してよくある批判】
私が具体的な対応方法の提案や、心理教育などの大切さを強調する理由の一つには、学校の先生方やクライエントさん(カウンセリングをうける人のことを言います)、そして知人からのカウンセラーに対する批判があります。
批判としては、次のようなものが挙げられます。
⑴ふんふんと聴くだけで何も言ってくれない。
⑵「大変ですね」などの共感的な言葉ばかりで、具体的な対応方法を教えてくれない。
⑶説明がない。
⑷助言が素人レベル。
⑸言葉や共感が薄っぺらい。言葉が響いてこない。
⑹偉そう。
⑺「こういう子は将来不登校になりますよ」と決めつけられた。
⑻ダウン症の息子が、カウンセラーから「あなたは障がい者として生きていくしかない」言われ、子どもが鬱になった。
などです。
なかには「ほんとにカウンセラーなの⁈」とびっくりしてしまう内容もありますよね。⑴〜⑶はよくある批判で、⑷⑸⑹はたまにある話で、⑺⑻はカウンセラーとしてあり得ないと私自身思いますが、カウンセラーに傷つけられる事例は、情けないことに実際にある話なのです。
そして、⑴から⑷は主として、カウンセラーが「話す」行為です。
しかし、残念ながら、今の臨床心理士養成大学院の教育では、知識と聴く技術の訓練がほとんどで、"話す"ことについては放置されている状態なのです。カウンセラー個人が意識的に鍛錬を積まなければ、伸びない分野になっています。話す技術があまり教えてられていない背景には、「"話す"という技術を教えることは、聴く"技術"を教えるより難しい」という事情があります。
また、臨床心理士の生みの親である河合隼雄先生が、「カウンセラーが何もしないこと」の大切さを、京都を中心にして教えていたことも大きな要因だろうと私は思います。河合先生が言うところの「カウンセラーが何もしない」という行為は、とても奥が深いカウンセリングスタイルなのですが、カウンセラーが何もしないカウンセリングスタイルは、ややもすればカウンセラーの能力や自信のなさ、無責任さの隠れ蓑になってしまいます。河合隼雄先生の言葉を隠れ蓑にして、自分ができないことを回避しつづけているカウンセラーが多いように感じています。その結果として、[何もしない=助言しない]といった"話さない"カウンセリングスタイルが"伝統的な"カウンセリングスタイルとして、京都を中心に広がってしまったのだと推測しています。認知行動療法や応用行動分析に基づくアプローチがカウンセリング業界でも近年注目を浴びがちな理由には、このような背景があると思います。
私は上記の危機感から、大学での院生への指導をはじめ、若手カウンセラーの方を対象にスーパバイズを提供し、現場でしっかりと役に立つカウンセラーの育成に努めることにしました。
【悩み抜くことを手伝うカウンセリング】
少し話がそれましたが、私も大学院卒業後の2、3年間は、助言を控え、クライエントさんの話を傾聴し、「クライエントさんが自ら考え、悩みぬき、自分自身に出会っていく作業」を手伝うことを主としていた時期があります。
「クライエントさんが自ら考え、悩みぬき、自分自身に出会っていく作業」を大切にする姿勢は、今も私のカウンセリングのベースにある姿勢です。なぜなら、カウンセリングで語られる悩みは一概に答えられるものでないことが多く、本質的には「その人生を生きているクライエントさん自身にしか見つけられないもの」だからです。
一般に「カウンセリング」というと"癒し"や"良い方法を教えてくれるもの"を連想されると思いますが、このような自身を探求し、未だ気づいていない自分に気づき、悩みぬき、自分で答えをだす作業は、癒しだけではなく、痛みもあります。自分と向き合うことですから、かなり大変な作業なんです。
自分と向き合うことがいかに大変か。。漫画版『風の谷のナウシカ』(全七巻)は、宮崎駿監督が自分と向き合いつづけた末に生み出された物語なのですが、描き終えるまでに14年もの歳月がかかっています。その間、幾度となく中断がありました。宮崎駿監督が自らと向きあいつづけた末に生み出された漫画版『風の谷のナウシカ』は、非常に深く重みがあります。だからこそ、多くの人の心に響くのでしょう。同時期には映画の『もののけ姫』があります。
またまた話がそれましたが、先の話で私が伝えたかったのは、「自分と向き合いつづけるカウンセリングはとても大変な作業であること」、だからこそ「ともに歩むカウンセラーとの信頼関係が大切になること」です。
【信頼関係がうまれるには】
さて、ここからが今回の話の中心になります。
先にお伝えした問題意識から、私は信頼関係を作ることを丁寧に考えはじめました。信頼関係はどのようにして育まれるのか。その答えのひとつが、クライエントさんが"希望"を感じられるようなカウンセリングを提供することでした。
クライエントさんの多くは、最初は何か具体的な提案やアドバイスを求めて相談に来られますから、まずはその訴えに真摯に応えていくことでした。それ以来、私はクライエントさんの求めに応じて、具体的で実践可能な対応を提案することを心がけています。
このように、一見当たり前に思われるような事柄を、わざわざ私が強調しお伝えする理由は、クライエントさんの話を聴くだけ聴いて、クライエントさんが「で、どうしたらいいですか?」と尋ねると、「様子を見てください」と答えるカウンセラーの人たちが沢山いるためです(カウンセラーへの批判①)。
相談内容によっては、「様子を見てください」としか言いようがない場合もありますが、クライエントさんがカウンセラーに不満を抱く場合は、カウンセラーの逃げ口上として使用されている可能性があります。
カウンセラーが真摯に向き合ってくれているのか、それとも逃げているのか、カウンセラーの心理はたいていクライエントさんに伝わります。後者の場合、当然のことですが、クライエントさんが不満や憤りをカウンセラーに感じやすいのです。
ここで私自身の体験を二つ紹介したいと思います。
ある年の年始のことです。急に親不知の歯が痛みだし、激痛に襲われました。しかし、年始だったので歯医者はまだ休み。私は仕方なく、薬を飲んで痛みを抑え3日ほど耐え、歯医者が営業をはじめると、藁にもすがる思いで行きました。そこで私がうけた処置というのが、一通りの診察の後、医者から「歯茎炎症があって、炎症がおさまるまでは治療できません」と言われ、「何かできることはありませんか?」と私が尋ねると、「薬を出すので様子を見てください」だったのです。私はこの医者の応答に非常に不信感をもちました。同時に、カウンセラーの「様子を見ましょう」という言葉の無責任さをあらためて感じたのでした。
その後、近くに評判の歯医者さんがいることを知り、すぐに行きました。そしたら全然対応が違うのですね。「炎症があり治療ができないのは同じだけれど、痛みがすごいのが分かるから、痛みだけでも何とかしたい」と考えてくれたのですね。そして、「効き目があるか分からないけど」と言いながらも、具体的な対応を教えてくれました。そして、診察を終え、待合室で待っていたら、「ごめん、もう一度こっちにきてくれる?気持ち程度のものかもしれないけど、薬を塗っておくわ」と呼び戻されたのですね。これには非常に驚き、感動しました。私は、カウンセラーとして大切なことを教わったような想いがしたのです。
二つ目の話です。今はやっていませんが、2年ほど前まで、私は『ファンタジーグループ』という、イメージを用いたグループワークの世話人(スタッフ)をしていました。そのファンタジーグループで、あるグループをうけもった時の話です。
ファンタジーグループは、5,6人で一つのグループとなり、一つの大きな模造紙に、フィンガーペインティングでイメージを描いていくという、一泊二日の心理学的なグループワークなのです。その時のグループに、1人だけ韓国の方が参加されていたのですね。全体の参加者で、日本人ではないのはその方だけでした。
皆さんは想像つくかどうか分かりませんが、国や文化が違うということは大変なことなのですね。また、私は英語が話せないので、参加者やスタッフで英語ができる人が手伝ってくれましたが、通訳がはいるとやはりテンポが遅くなります。私は決してその韓国の方が置き去りにならないようにと一生懸命に努め、参加者の方の協力もあり、最終的には良いグループワークとなり終わりました。そして、2日目の終わりの挨拶のとき、参加者全員が一言ずつ感想を述べていくのですが、その韓国の方が「日本人のなかに私1人で不安だったが、世話人の方が考えてくれるのが分かり、最後にはグループに参加することができた。世話人の真心を感じて、それが嬉しかった」とコメントしてくれたのですね。その時、私は感動し感謝すると同時に、大事なことを教えてもらった気がしたのです。
【カウンセリングと真心】
真心を辞書でひくと、「偽りや飾りのない心。真剣につくす心。」とあります。
カウンセリングに、専門的な知識や技術が必要なことは言うまでもありません。しかし、専門的な知識や技術を下支えしているのは、"真心"です。"真心"は聞こえの良い言葉ですが、"真心"を込めたカウンセリングをするには、カウンセラー自身の修行が必要だと私は思っています。今後の記事でも述べていきますが、カウンセラーの代名詞でもある「受容と共感」も、簡単にできるものではなく、カウンセラー自身が自分と向き合うことが必要です。
以上、皆さんがカウンセリングをうける際の参考になれば幸いです。皆さんがカウンセリングをうけて、嫌な想いをしたり、傷つけられることがありませんように。
てだのふあカウンセリングルーム
2017-08-06カウンセリングと真心(まごころ)