親を心理的にあきらめる ー 思春期の子育て ー
記事カテゴリ:子育て
さて、今回は、「親を心理的にあきらめる」というテーマについて、子育ての視点もいれて解説していきたいと思います。
後に詳しく解説していきますが、カウンセリングを受けにこられる方は、やはり家庭環境的に大変苦労されてきている方が多いと思います。親から虐待を受けていたり、親が精神疾患を患っていたり、幼い頃から親がいなかったり。
様々な事情がありますが、これらのような事情があると、「親を心理的にあきらめる」作業がうまくいきません。「親を求める」幼い頃の精神的な欲求が、意識的無意識的に強く働いてしまうからです。そのような方にとって、親をあきらめることは一生をかけるほどの大作業なのです。同時に多大なエネルギーがかかります。
ですが、もし親をあきらめる作業をなんとか達成できれば、イライラがとても少なくなり、そこに費やされていた多大なエネルギーが他に費やせるようになるので、その分より活き活きとした豊かな人生を過ごせるようになります。
また、繰り返しになりますが、今回は子育ての視点からも解説していますので、親を心理的にあきらめることに葛藤を抱いているご本人の方だけでなく、親業をなさっている方にも役立つ内容ではないかと思います。
本記事が皆さんの生活に役立てば幸いです。
【日本人が苦手な精神的自立】
「親を心理的にあきらめる」とは、言い換えれば「親からの精神的自立」を言います。もっと違う表現をすれば、「親に答えを求めない」「親に気持ちを分かってもらうことをあきらめる」「親に期待しなくなる」こと、と言えるかもしれません。
「親を心理的にあきらめる」という課題は、心理学の分野では一般に「思春期」における課題とされています。思春期の主たるテーマは、一人の自立した人間として成長することです。
親からの精神的な自立を果たした人は、自分の行動に責任をもち、自分の人生を主体的に歩んでいきます。
ですが、思春期の主たるテーマである「親からの精神的自立」は、最初に挙げた個人的要因だけにかぎらず、日本人にとっては難しい作業なのです。理由は日本文化にあります。
【母性社会日本】
日本は「母性社会」と言われ、「母性」が強い文化をもっています。日本人はその文化的傾向から、対決よりも和を尊び、子を想い、そして親を敬うことが美徳とされ、評価される社会で生きています。そのため、親と対決することが難しくなりやすいのです。
ここで、「母性」と「父性」について簡単に説明しておくと、母性は「優しさ・包む・繋ぐ・許す」などの特徴をもっていますが、一方で、父性は「厳しさ・押しだす・切る・責任」などの特徴をもっています。
日本生まれの組織は「母性がとても強い」と言われています。その象徴が「終身雇用」です。これは、母性の良い面と言えるでしょう。
しかし、母性が強すぎると、今の政治に見られるように、責任を曖昧にしてしまうなどのマイナス面が出てきます。結果として、強すぎる母性は個人の自立を妨げてしまうのです。
この母性優位である日本文化のために、日本人は「親との対決」を回避しがちで、「親からの精神的自立」が困難になってしまいやすいのです。
【父性に支えられた子育て】
子育てでは、一般に「気持ちを分かる」「共感する」などの母性的な関りが強調されがちですが、何事もバランスが大切です。
先程の話のように、母性ばかりが強調されすぎると、結果として個人の自立を妨げてしまいます。子どもに手をだしすぎることも母性が強すぎると言えるでしょう。このようなときに、必要とされてくるのが「父性」です。父性は強すぎる母性をとめ、子どもを囲うのではなく送り出し、主体性を育む方向へ導きます。そして、子育てにおいて、この父性が特に求められる時期が、「親からの精神的自立」がテーマとされている思春期なのです。
しかし、強すぎる父性も同じように注意が必要です。母性に支えられていない父性は、子どもを追いつめてしまいます。私がカウンセリングや講演でもお伝えするのは、「母性が先にあって、その後で父性をだす」ことです。
【反抗期と親業の大変さ】
子どもが親から精神的自立を果たすには「親との対決」が必要だと述べました。もう少し丁寧に表現すれば、「親との精神的な対決」と言えるでしょう。この「親との対決」の作業が、いわゆる「反抗期」なのです。これが、「反抗期がはじまったということは、子育てがうまくいっていることの証ね」と言われる理由です。
ですが、親にとっては、この反抗期がとてもしんどくて、耐えられないのですね。反抗期が一旦はじまると、これまでの子育てにおいて、子どもの心に溜りに溜まった親への怒りが、一気に吐き出されてきます。親にとっては、それまでの子育てと向き合わされるため、辛い時期です。それまでの子育ての仕方によっては、非常に大変な想いをされる親もいます。
ですが、親がここで逃げてしまって壁にならなければ、子どもは精神的に自立を果たせません。ただ、親も完璧ではありませんから、苦手な分野は人に頼ることも子育ての方法のひとつです。親でなくても、学校の先生や職場の上司が壁としての親役割を果たしてくれている場合もあります。
思春期の子育てを楽にするためにも、子どもが思春期を迎えるまでに、母性的な関わりを丁寧に行ない、子どもが親への怒りを溜めすぎないようにしておくことがポイントです。
【親と子の違いを明らめ、認める】
さて、本記事において、私が1番強調したい箇所の解説です。
皆さんが、通常親子と言うと、“気持ちの通い合った”親子を想像されるかもしれませんね。商業目的で「世界一の親子」などという言葉を飾り立てるメディアもありますし、メディアの影響も大きいかもしれません。
しかし、この“気持ちの通い合った親子像”を追い求めてしまうと、親子ともに苦しくなり、思春期を乗り越えることが難しくなってしまいます。
吉田拓郎さんの「人生を語らず」という曲のなかに、次のような一節があります。
『人生を語らず』 作詞作曲:吉田拓郎
嵐の中に 人の姿を見たら
消えいるような 叫びをきこう
わかり合うよりは たしかめ合う事だ
季節のめぐる中で 今日をたしかめる
越えて行け そこを
越えて行け それを
今はまだ 人生を 人生を語らず
思春期は、子どもがそれまで自分の拠り所としていた親の価値観から抜け出し、親とは違う価値観や考えをもった一人の人間として成長する時期です。
ですから、思春期の子育ては、親と子も一人の人間として対峙し、ぶつかり合うことがどうしても必要です。“仲良し”だけでは済まされないのです。物分かりが良すぎる”良い親”が思春期の子育てで悩むのも、この理由によります。
思春期の子どもは、自分の想いをぶつけて、自分とは何かを確かめるための“壁(となってくれる人)”を必要としているのです。この「壁となってくれる人」こそが、世間一般の感覚にあるところの父親なのです。父親が「子どもにとっての社会の窓口」と言われる理由です。
思春期の子育ては、分かり合うことがゴールではありません。むしろ、「親子であっても分かり合えないことがあることを認める」ことがゴールと言えるかもしれません。互いに相手を自分とは異なる一人の人間として向き合い、違いを認め、「こういう人間なんだ」と確かめあうことが、思春期の子育てです。親子だからこそ分かり合えることもあるし、親子だからこそ分かり合えないこともある、それが自然な親子関係、人間関係です。
【思春期は親子関係の結びなおす時期】
そのため、思春期の子育てでは、当然親子関係に大きな変化が起こります。その意味では、思春期は、「親子関係を結びなおす時期」と言えます。上下の関係ではなく、横並びの関係、ともにお酒を交し合える関係になるのです。
とは言え、それまでの親子関係に大きな変化が起こりますから、親としては寂しくなったり、「子どもが一生自分から離れていってしまうのではないか」と不安になる人もいて当然だと思います。
ですが、子どもの様子をよく見てみると、親に反抗している子どもの行動や言動のなかに、親を想う部分がちらっと見えていることが多いのです。私はカウンセリングに来られている親の方に、子どもが親を想っている部分が見つかったり感じとられた場合は、必ずお伝えするようにしています。指摘されることで、「あっ言われてみれば、、そうですね」と気づき、次第に笑顔になりホッとされる方もおられますし、「そうなんですか。。」と半信半疑な方もいらっしゃいます。いろんな親子関係がありますので一概に言えませんが、子の親を想う気持ちは信じて良いと思います。
てだのふあカウンセリングルーム
2017-07-29親を心理的にあきらめる ー 思春期の子育て ー
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