大切な人を亡くされた方へ ー グリーフケア とは ー
記事カテゴリ:心理カウンセリング
1.グリーフケアとは
大切な人がこの世からいなくなることは、とても耐えがたい、辛い事ですよね。想像しただけでも悲しくなり、涙がでてきます。そして、実際に死別を体験すると、遺された人(遺族)には様々な心身の反応がでます。喪失感をはじめ、悲しみ、怒り、不安、虚無感、無気力など様々です。それらをまとめて、「グリーフ」と呼びます。また、グリーフには「深い悲しみ」という意味もあります。そして「グリーフケア」とは、支援者の立場から生まれた言葉ですが、[身近な人・大切な人との死別を経験した人が、その深い悲しみから立ち直っていくうえで必要としている適切な関わり]のことを言います。
このような説明をきくと、「グリーフケアなどとわざわざ言わなくてもいいのではないか」「そんなことはお坊さんをはじめ、昔からやっていたではないか」と思う人もいるかもしれません。「グリーフケア」という言葉が誕生し、叫ばれるようになった背景には、それなりの歴史(理由)があります。
2.グリーフケアの歴史
グリーフやグリーフケアが、日本において研究対象として意識されはじめたのは、1970年代からでした。その背景には、医療の進歩や社会環境の変化―たとえば平均寿命がのび、在宅ではなく病院で亡くなる人が増えたことなど―により、死にゆく過程(看取り)を身近に経験することが減り、グリーフ体験を共有する機会が減ったことがあります。そのため、大切な人を失い悲しみに暮れる人をまえにして、「どのように関わり、支えていけばいいのか分からない」という人が増えてきたのです。また、延命治療や安楽死などをはじめ、人生最後の医療のあり方やホスピスケアに関心が高まり、ホスピスや緩和ケア病棟が日本国内に広がってきたことも関係しています。当初は、死に際している本人のケアに焦点があたっていましたが、次第に、「遺族らに対するケアも大切でないか」という声がでてきたのです。
日本において、グリーフケアがよく知られるようになったのは、「2005年に起きたJR福知山線の脱線事故から」と言われています。「複雑性悲嘆(ふくざつせいひたん)」と呼ばれる“重い”グリーフ症状を抱えた遺族の方が少なくなかったことから、2009年に、兵庫県尼崎市にグリーフ専門の研究機関「グリーフ研究所」が設立され、グリーフケアに対する啓蒙活動や、ケアにあたる人材の育成に力がいれられるようになりました。
また、年間3万人超もの自殺者が続いたことも理由の一つです。2006年に、「自殺対策基本法」が国により制定され、自殺で親族を失くした自死遺族の方へのケア、自殺未遂をした人の親族の方へのケアが重要な施策として位置付けられるようになり、東日本大震災などもくわわり、遺族に対する“適切な”支援が求められるようになり、次第にグリーフケアが注目されるようになりました。
3.グリーフケアの特徴
これまでのグリーフケアは、皆さんよくご存知の通り、お坊さんが説法などを通して行っていました。また、世間一般でよく言われる言葉で、「日にち薬」であると考えられてきました。しかし、「複雑性悲嘆」と呼ばれる重いグリーフ症状を抱えた方には、もっと整えられた専門的な関りが必要であることが次第に明らかになってきたのです。
グリーフケアの特徴は、[悲しみに暮れる人に“さりげなく寄り添う”姿勢、コミュニケーション]です。深い悲しみに暮れている人にとって、周囲からの励ましは、時に非常に辛く、苦しいものになる場合があり、問題視されるようになってきました。
4.グリーフのプロセス
深い悲しみに暮れる人がたちなおってゆくペースは、その人により様々です。周囲は、早く元気になって欲しいと思い、「ほら元気を出して」「くよくよしていても何も変わらないよ」などとつい焦ってしまいますが、その焦りから本人をさらに苦しめてしまう場合があります。このような事態を避けるためにも、深い悲しみに暮れる人がたちなおってゆくプロセスを知っておくことが大切です。ここでは簡単にご紹介します。
1.大切な人を失う
2.否認(大切な人の死を認めない、認められない)
3.パニック
4.怒り
5.恨み
6.罪悪感
7.空想形成
8.孤独感と抑うつ感
9.精神的混乱と無関心
10.あきらめ、そして受容
11.希望の抱き
12.立ち直りの段階。新しい考え、アイデンティティの発見。
5.グリーフケアのポイント
人は大切な人を失うと、通常上記のような段階を辿ります。このとき、「大切な人をどのようにして失ったか」が非常に重要です。亡くなり方には、自殺、他殺、事故、災害、病気、老衰など様々なものがありますが、いわゆる「突然死」と呼ばれる、自殺、他殺、事故、災害、心不全等による突然死によって大切な人を失った場合、グリーフのプロセスがうまくいきません。その理由としては、亡くなり方が残酷であり、事実が受け入られないということも大きいのですが、突然失うことにより、大切な人とのお別れの作業ができないということが最も大きな理由です。
老衰で亡くなる場合は、通常、亡くなるまでに介護など大変な想いをされていると思います。介護は大変ですが、言い換えると、大切なお別れの作業をしているとも言えるのです。話しかけたり、身体を拭いてあげたり、手をさすってあげたり、ご飯を食べさせてあげたり、そういったコミュニケーションの一つ一つが、お別れの作業になっているんですね。ですから、大切な人を失う前に、お別れの作業が十分にできていると、特別な支援がなくても、グリーフのプロセスは進んでいきます。
しかし、突然死によって大切な人を失った場合は、お別れの作業ができていませんから、グリーフのプロセスがうまく進みません。それでは、突然死によって大切な人を失った人に対しては、どのように関わってあげればよいのでしょうか。
それが、先程にも述べた、寄り添う姿勢・コミュニケーションです。[不用意に励ますのではなく、本人のそばにいて、本人の語りをふんふんと聴いてあげる]のがポイントです。立ち直りのプロセスにおいては、失った大切な人にまつわる様々な出来事や感情を話せることが非常に重要です。話せるようになるまでには時間がかかります。失った直後はパニックになっていますから、そばにいて見守ってあげてください。周囲に怒りちらすこともあるかもしれませんが、その時本人はとても苦しい状態です。本人を非難することはせず、温かく接してもらうのが何より重要です。怒りをある程度吐くことができると、恨みの感情などがでることもあります。不謹慎なことを言ったり、空想と思われるような物語をつくることもあるかもしれませんが、注意したり、無理に修正しようとするのではなく、聴き続けてあげることが重要です。そうすると、プロセスが次第に進んできて、抑うつ状態に入ります。大切な人を失うことは辛い事です。ですから、抑うつ状態になるのは自然なことです。周囲としては心配になる時期かもしれませんが、自然なプロセスなので、慌てず接してもらうことが大切です。このとき、本人の立ち直りには本人のペースがありますから、[本人のペースを大切にして寄り添うこと]がポイントです。
しかし、パニックに陥っていたり、怒りや恨みでいっぱいになっていたり、周囲からの関わりを拒絶するような雰囲気をだしているような本人に、あたたかく関わることは、そう容易ではありません。ですから、是非専門家を頼っていただければと思います。大切な人を失ったご遺族ご本人はもちろんですが、ご遺族を支えておられる方が相談にいくことがとても有益です。
6.私自身の経験談から
私自身、母を数年前に心不全で亡くしました。突然死だったので、思い返せば、パニックになっていたと自分でも思います。幸い、周囲には専門家の知り合いがたくさんいましたので、そうした方々の助けがあり、今では受け入れられるようになりましたが、やはりそうした適切な関わりがなければ、今はなかったように思います。
大切な人を失った後のプロセスは、亡くなり方、失い方、大切な人とのそれまでの関係などによって、大きく変わってきます。兄弟であっても、比較的立ちなおりが早い兄弟もいれば、ずっと悲しんだままの兄弟もいます。同じショックな出来事を経験したときの反応は、人によって違うのです。この点を理解しておくことが非常に大切です。悲しみの深さ、悲しみ方や立ちなおりのプロセス、立ちなおるまでにかかる時期など、人によって違うことを知っておくことで、[自分が立ちなおったからといって、「お前はまだくよくよしているのか」などといった声かけをしてしまうことの予防]になるからです。
7.“心の専門家”よりも“心の通い合った関係”を大切に
これまでのなかで、専門家に相談することを勧める文章を書いたにも関わらずこういうことを述べるのもおかしいことかもしれませんが、納得のいく方もおられるのではと思います。
私自身は「グリーフケアの専門家」というものに対して、またそれを名乗ることに対して、どこか違和感や抵抗感をもっています。私自身の問題かもしれませんし、まだうまく言葉にできないところもあるのですが、グリーフケアに専門家という存在をつくること自体、おかしいのではないかと思っています。「心の専門家」という呼称に抱く疑心感と似ているかもしれません。
東日本大震災で福島県に支援に赴いた際、被災者の方に「心のケアにきました。心のケアの専門家のカウンセラーに話してください」というようなことを言っているカウンセラーがいましたが、非常に違和感を覚えました。話すかどうかは、その人が決めることです。専門家だから話せるというわけではありません。「この人なら話していいかも」という気持ちがあって、はじめて話せるわけです。そういったことを被災者の方にお伝えすると、多くの人が頷いてきいてくださっていました。
ですから、相談する場合、専門家だからということではなくて、気持ちが通い合ったやりとりができる、信頼できるなどの自分の感覚を大切にしてくださいね。
8.終わりに~大切な人を突然失ってしまった方へ~
突然大切な人を失ったとき、パニックになったり、受け入れ難かったりすることと思います。私自身は、母が亡くなってからも、夢で死んだはずの母親が生き返り、時折夢の中に母が出てきては、母と対話していました。夢の中で、母は「ごめんね」と謝っていました。このように、亡くなった人の関係は、死んだ後も続きます。そして、大切な人を失った後も、あなたは生きていて、陽は昇っては沈んで夜になり、夜になると寂しさや孤独を感じ、また朝がきて、時は流れていきます。
私自身の経験から伝えられることとしては、大切な人の“形見”があれば、それを探し、身近に置くようにしてくださいね。また、四十九日の法事行事はもちろんのこと、月命日や年命日などには、故人の霊前に座り対話するようにしたり、綺麗な花をそえたり、故人のいる場所を手入れしてあげてください。毎日その人のことを考えていては、前向きに生きていけません。罪悪感は生じて当然ですが、罪悪感や悲しみにとらわれていては、あなたまでが「死」に引きずり込まれてしまいます。あなたが元気に幸せに生きていることが、亡くなられた大切な方にとって一番の喜びであり幸せです。亡くなられた大切な人の供養のためにも、元気なあなたを取り戻されることを心より祈っています。
てだのふあカウンセリングルーム
2017-05-22大切な人を亡くされた方へ ー グリーフケア とは ー
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