「死と再生」の物語-再生のイメージを求めて-
記事カテゴリ:雑感記事
先週の半ばから3日間、7月の西日本豪雨で被災した地域の学校に支援に行っていました。3日間という短い期間でしたが、高学年の男の子との印象的な出会いもありました。
活動について詳しくは紹介できませんが、今回の支援活動を通してあらためて感じたこと、そして出会った方々に伝えたいと思ったことについて書いてみました。
被災地の支援に行くと、「生命」や「生と死」の動きを感じます。地域よっては幸いにも人命は無事であった地域もありますが、人命は無事であったとしてもそこに生えていた樹が死んでしまっていたりして、想像を膨らませば、多くの様々な生命がなくなっていることに気づかされます。そして子どもたちは、大人以上に生命の動きについて感じとっています。
どんな生命でも、生命が終わるという現象には、言葉には表せない、神秘的な力というのか、厳かな重みのようなものがあります。失われた生命が自分にとって大切な生命であればなおさら、人生が終わったように感じられたり、絶望感にとらわれることもあると思います。そのような心中にある方のことを思うと、胸が苦しくなります。
しかし、絶望感にとらわれてしまうと、いろんなことがネガティブに感じられ、ストレスが増大し、心身の調子を悪化させます。心身の健康という意味では、できるなら早い段階で絶望感やネガティブ思考をくいとめ、脱出できるほうがいいですよね。
時には絶望感のなかをしばらく生きたり、心のどん底まで落ちきったり、悩み考えつづけることが必要な時期もあると思います。また、そのタイミングというのは体験してみなければわからない、終わってみなければわからないものなのかもしれません。まして、意識的にやってのけるようなものではないだろうと思います。
深く苦しみの中にいるときには想像もできませんが、そうした長く暗い時期にも、いつかは終わりが訪れるものです。ユング心理学の重要な心理的テーマの1つである「死と再生」のテーマは、そのような心的現象をうまく表現してくれています。
死ぬ生命がある一方で、生まれてくる生命があります。今回の洪水で亡くなった木々の後には、新しい生命が生まれる営みがきっとはじまっているはずです。
それまでそこにあった生命がなくなった瞬間は悲しみに暮れますが、しばらくたって新しい生命が芽吹いていることにふと気づいて嬉しくなる瞬間があります。
そのとき、あなたの心の世界では、外界の生き物を心の投影対象として、「死と再生」のテーマが起こっています。
新しい生命の芽吹きは心に希望をもたらし、生きる力を与えてくれます。
ですから、花を植えて花壇を作って憩いの場を作るなどの行為は、被災後の心のケアの視点においても、とても大切です。
ここで私が伝えたかったことをまとめると、「死の後には常に再生の動きがあることを知っておいて欲しい、意識しておいてほしい」ということです。そうすることで、絶望感やネガティブな認知の抑止や脱出、予防につながると思います。心のなかに暖かな肯定的なイメージが再生されることは、心の健康の回復にとって重要です。
たとえば、夢の内容で、自分や誰かが死ぬ夢をみることがありますよね。そういったときにも、単に否定的に捉えるだけではなく、「死んだその先にはどんな続きがあるのだろう。どんな再生の物語があるのだろうか」と考えるほうが、調子も好転しやすいのです。
冒頭に紹介した男の子とのやりとりでは、先日お亡くなりになったさくらももこさんの話になりました。私は男の子の語りに込められた悲しみや涙を感じる一方で、同時に心のなかに暖かなイメージも浮かんでいました。
さくらももこさんと言えば、『ちびまる子ちゃん』の原作者として有名ですが、『ちびまる子ちゃん』のエンディング曲の1つに、さくらさんが作詞し、桑田佳祐さんが作曲した「100万年の幸せ!!」という曲があります。この曲が作曲されたきっかけは、さくらさんが桑田さんに作曲を依頼し、桑田さんがさくらさんの歌詞に感動したことだったらしいです。当時は桑田さんも病気になっていて、この歌詞はさくらさんから桑田さんへのメッセージだったのではと感じます。
私はこの曲のことを知っていたので、男の子とのやりとりに悲しみを感じながら、同時に心の中に暖かなイメージをもつことができました。余談ですが、暖かなイメージを心のなかにもつことは支援者としては重要なことなんですね。
「100万年の幸せ!!」はさくらさんと桑田さんの優しさが溢れているそんな曲なので、知らない人はぜひ聴いてみてください。
繰り返しになりますが、被災地の支援に行くと、少なからず「生命の動き」「生と死」の世界に心が触れます。そのせいか、被災地支援に行くたびに、私は母を亡くした当時のことが思い出されてきます。
母が突然他界してしまったとき、私の心のなかには大きな穴があいたようなイメージ感覚が生じました。そして、それに触れてしまうとそのまま穴のなかに引きずりこまれてしまうような状態がしばらく続きました。当時はカウンセラー仲間や信頼する人の力を借りながら、一方でいろんな曲をきいては心の支えにして、精神状態をもちなおしていたものです。
そのときによく聴いていた曲の1つに、桑田さんの「明日晴れるかな」という曲があります。東日本大震災のときにもよく流れていましたが、この「明日晴れるかな」もとても優しさに溢れた曲なのでぜひ聴いてみてください。
人にはそれぞれの物語がありますので、同じというわけにはいきませんが、被災された方や悲しみに暮れている方が暖かなイメージや物語に出会えることを祈っています。
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2018-09-03「死と再生」の物語-再生のイメージを求めて-
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