子どもの主体性と不登校(2018.11.03 改定)
記事カテゴリ:子育て
本記事は、2018年2月4日にアップした【活動報告:「大阪市PTAだより 第703号(2018年1月20日)」に執筆記事「子どもの主体性をいかに育むか」が掲載されました。】を改定したものです。
【はじめに】
この度、大阪市PTAだより編集室様より、大阪市PTAだより 第703号 の「スクールカウンセラーからの報告」欄に記載する記事の執筆依頼を頂き、記事を投稿させて頂きました。
内容は、「子どもの主体性をどのようにして育むか」です。以下には、記事の内容をより分かりやすく書いています。後半には、主体性に着目した不登校対応の事例を簡単に紹介していますので、ご関心がある方は、是非お読みください。
【子どもの主体性をどのようにして育むか】
主体性とは、「自分の意志と自覚に基づいて決断し、行動する態度」のことをさしますが、具体的には、「僕は~がしたい」「私はこう思う」などの発言に現れます。
私が主体性の問題に着目をするようになったのは、スクールカウンセラーとして多くの不登校児童・生徒と向き合ってきた経験からでした。
他の不登校記事でも述べていますが、不登校問題の大きな要因に主体性のなさ、もしくは主体性が発揮されていない、という状況があります。
子どもが不登校になると、学校の先生は「とにかく学校に連れてきてください」と保護者に訴えます。親としても学校に行ってもらわないと困るので、子どもを無理やりにでも引っ張って連れていく、あるいは車に載せて連れていくなどの光景がよく見られます。
子どもが低学年のうちはそれでも登校させられるのですが、その間に特別な対応がなされないと、
「子どもが高学年になって体が大きくなり、親への反抗がはじまると、子どもを登校させることができなくなり、次第に家に引きこもるようになる」
ということがしばしば起こります。そして、親としては疲れ果て、どうしたらよいのかと困ります。
このような経過をたどり、子どもの不登校でお悩みの保護者の方は、一度立ち止まって考えなおしてみませんか?
落ち着いて考えてみましょう。
Q:子どもは誰のために学校に行くのでしょうか?親でしょうか?おばあちゃんやおじいちゃんのためでしょうか?
A:どれも違います・・・とまでは言い切れないと私は思いますが、答えは自分のためですよね。自分の人生のために学校に行くのですよね。それが上記のようなプロセスに陥ると、子どもは「親のために行かされている」と思うようになります。
ですが、本来、学校は自分の足で登校するものです。自分の人生ですから当たり前の話です。
このようなことは私に言われるまでもなく、保護者の皆さんはそう考えておられると思います。その結果、「どうして学校に行かないの!?」とつい子どもを責めるような言い方になったり、車に載せて無理やり連れて行ったりしているのではないでしょうか。
しかし、こうした子どもへの関わりを特別な対応をせぬままに“いたずらに続ける”ことは、子どもの主体性を奪い、被害者意識を高めてしまうだけです。もし無理矢理行かせている場合は、必ず学校と相談して、子どもの主体性を育む手立てを打つようにしてください。
現在不登校で困っておいでの保護者の皆さんは、自分の子どもに「~したい」などの発言が見られていますか?自分から「今日こんなことをしたよ」「できたよ」などの親へのアピールがありますか?
もし今の子どもの姿に主体性が見られないようならば、主体性を育むところからはじめる必要があるでしょう。
それでは、どのようにすれば主体性は育まれるのでしょうか?その方法を以下にいくつか挙げておきます。
❶子どもに成功体験を積ませ、達成感を培うこと
❷工夫した声かけを子どもに行う。
❸具体的、あるいは部分的に褒める。
❹褒めポイントを見つける
❺好きなことをなるべくさせてあげる。
❻ガミガミと怒らない
❼話をふんふんと聞いてあげる。
❽不登校の子どもの心理について理解する。
❾楽しい親子の時間を大切にする。
❶についてですが、子どもはそれぞれ能力が違います。兄弟や双子であっても違います。その子の能力にあった課題をスモールステップで設定することがポイントです。保護者の方の話をお聞きしていると、親が期待するあまりに、子どもが相当頑張らないとできないようなレベルの課題を最初に設定してしまうのでうまくいかず、「だめでした・・(泣」と挫折してしまうことが多いように感じます。
大切なのは達成できることです。達成できないと、「よし次も頑張ろう」という意欲が沸いてこないばかりか、「もうやりたくない」と後ろ向きな思考を強めてしまう結果になることさえあります。極端なことを言えば、今すでにできていることを目標にすればいいのです。そして達成感を培い、褒めることによって意欲を高めていきます。
また、本人が課題に主体的に取り組んでいて、つまづいているようならば、親が手伝ってあげるのもOKです。ただその際、「お父さんが手伝ったからできたんだぞ」などの声かけは控えましょう。子どもの達成感が損なわれるだけで、何のメリットもありません。花は子どもにもたせましょう。
❷について。先ほどの声かけもそうですが、日々皆さんが何気なくやっている声かけの内容や仕方が、意欲を高めるうえで非常に大切です。親の声かけの仕方ひとつで、子どもの様子は大きく変わってきます。
まず、子どもを責めるような言い方は控えてください。「なんで学校に行かないの?」などのような「Why(なぜ)」がついた言葉は、子どもを責めている感じに伝わることが多いので、自分が使っていないか注意が必要です。
また、「あんたが学校に行けば、皆笑顔になるのよ」などのような声かけもやめましょう。誰のために学校に行っているのかの自覚をゆがめることになります。
「お姉ちゃんも学校は嫌なのにいつも行ってるのよ」などの兄弟を比較した言葉かけもやめましょう。
望ましい声かけは、やはり褒めることです。子どもが達成できたら、「すごいやん!」「頑張っていたね」「見なおしたわ」などと声をかけてやるのです。大人からの声かけは、子どもの達成感を深めます。また、「お母さんは僕のことをちゃんと見てくれている(僕は価値ある人間なんだ)」と、自己肯定感を高めていくことにもつながります。
❸について。「褒めましょう」と一口に言っても、「いや、あの子には褒めるところが全然なくて・・」「褒めるようなことは何もしていないし」という保護者の方もたくさんおられます。そのような場合には、部分的に褒めてやるのがポイントです。
たとえば、「あいうえお」を全部書く課題があったとして、「あいうえお」を全部きれいに書けなくても、「この「お」はめちゃきれいに書けてるね。「お」って意外と難しいねんで」などと、部分的な達成を褒めてやるのです。過程を褒めるのと似ていますね。
達成できなくても、「真剣に頑張ってたのはすごくいいことじゃない?」などと頑張りを褒めることも大切です。
「できへんかったら意味ないで」や「あんたは何をやってもできへんねん」などの声かけは、「俺は何をしても無駄」という心理的希望を損なうだけなので、やめましょう。
ただし、「すごいね!」などのような声かけは、比較的低学年の子どもか、精神的に幼い子どもにしか通用しないことが多いです。高学年以上の子どもには、やはり成功体験を積ませることが必要です。
学校や勉強に関係なく家でできる取りくみで私がおススメしているのは「掃除」です。子どもに身の回りの生活空間を掃除させるのです。無理のない目標設定が大事です。子どもが普段過ごしている場所があれば、そこからはじめるといいでしょう。リビング、お風呂、トイレなど、家の重要な場所も良いでしょう。それできれいになったら、「まあきれい!きれいって気持ちいいな!お母さんも気持ちいいわ!」「うれしい、ありがとう」などと声をかけます。掃除は、心理的な効果も高く、社会的参加の意味があり、褒められることによって自己存在価値が高まる行為なので、ぜひやってみてください。
高学年以上の子どもへの接し方は、社会参加型の成功体験と「ありがとう」「うれしい」の言葉がけです。それで、子どもの表情が少し生き生きしたり、行動に張りがみられたならばOKです。
このようにして、褒められる機会を上手に作ってやるところからはじめることが必要です。
❹気持ちを込めて褒めるには、普段から褒めれそうなところ=褒めポイントを見つけておくことが肝要です。褒めポイントは考えてみればいろいろあるのではないでしょうか。
「勉強ができる」以外にも、「話が面白い」「会話が上手」「聞き上手」「相談したくなる」「人をほっとさせる」「スポーツができる」など、いろいろありますね。以前より早く起きるようになった、などの肯定的変化も褒めポイントになりますね。
ところが、親が「こうなって欲しい」という期待を強く抱いていると、子どもの長所が見えにくくなってしまい、子どもを褒めにくくなってしまいがちです。一度たちどまってみて、子どもの長所をみつめなおしてみましょう。そうすれば、おもいがけない発見があるかもしれません。
❺と❻については、先出の記事でも書いていますが、私が唱えている「エネルギー論」の考えに基づきます。
いたってシンプルな考えで、人にはそれぞれ固有のエネルギーがあり、そのエネルギーの限界を越えて活動してしまうと、うつなどの病気になったり、様々な不調を引き起こすというものです。
つまり、「人には1日に使えるエネルギーの限界がある」という発想です。
そして、エネルギーは身体エネルギーと精神エネルギーに分けられ、精神エネルギーに着目しているところがポイントです。
たとえば、親ががみがみ怒鳴ってしまうと、子どもは当然モヤモヤ、イライラしますよね。このモヤモヤ、イライラは「心の添加物」のようなもので、このモヤモヤやイライラの解消に、精神エネルギーが相当に費やされてしまいます。同じような意味あいで、夫婦関係がよくなく、家庭の空気がよくないと、それだけでも精神エネルギーが失われてしまいます。ですから、家庭の空気を良くすることも大切です。
好きなことをさせてあげるのは単純な理由で、人は好きなことができると、精神エネルギーが蓄えられるからです。主体的な活動にはエネルギーが必要です。ですから、まずはエネルギーをどのようにして蓄えるかということが、非常に重要です。
※「エネルギー論」について知りたい方はこちら↓
詳細はこちら
このような理由で、ゲームなどの好きなことをしていても、親ががみがみ言いつづけていると、エネルギーが一向にたまらないのですね。人にはエネルギーが貯まると、自然に成長の方向に流れるシステムがあります。精神エネルギーに着目し、エネルギーを蓄えること、エネルギーの無駄な消費を抑えることがポイントです。
ただし、「ゲーム依存症」とでも言いたくなるような、毎日何時間もゲームばかりをしている場合は、少し工夫が必要です。ゲームを取りあげてしまう方法もなくはないですが、それは親子関係など様々な要因によるので一概には何とも言えません。ですが、一日だけゲームをしない日を作る、などの方法は有効です。それによって、逆に他の日はゲームをしていいよ、と認めてあげる。こうすることで、今の子どもの姿を少しでも受け入れ認めてあげることができるようになります。また、子ども自身にも「自分をコントロールした」という実感をもたせることができます。掃除などをはじめ、学校に行っていなくても、日々の生活=自分をコントロールできている実感を少しでも育んでおくことが大事です。
❼について。
人は自分の話をしっかり聞いてもらえると、「私はこういう人間なんだ」という感覚=「自分」を作っていくことができます。自分の芯をつくるとも言えるでしょう。
主体性を発揮するためには、自分を作っていく作業が欠かせません。自分を作る作業には、精神エネルギーが相応に必要ですし、自分の話を人に聞いてもらったり、気持ちに共感してもらったり、良いところを見つけてもらったりすることが必要不可欠です。
とくに、今の自分の存在を認めてもらえるような経験は、とても重要です。たとえば、「お母さんは本当のことを言えば、あなたに学校に行って欲しいと思っているけど、今のあなたは生活をしているだけでいっぱいいっぱいなんだね」というような具合です。
❽について。
多くの不登校の子どもは、学校に行かず一見好きなことをやっているように見えても、内心は「僕はだめなやつだ」「お母さんに迷惑をかけている」「何をしてもダメにきまっている」「生きている資格がない」などと、自己否定感に苛まれています。そのような子どもの苦しさを汲みとった声かけが、子どもの気持ちを前に向かせます。「あなたは何も考えていないんでしょ!」などの子どもの気持ちを決めつけた言い方は控えてくださいね。
❾について。
子どもが不登校になると、しばしば親子関係も悪化しがちです。親は子どもの「明日は登校するから」という言葉に期待をし、翌日子どもが休むと、子どもに裏切られたかのように感じさえします。一方で、子どもはガッカリしている親の姿をみて、「自分は要らない子だ」「ダメな子だ」と自己否定をするようになります。そしてますます自信や意欲、エネルギーを失い、親子のコミュニケーションは悪循環に陥っていきます。
子どもが不登校になった時、大切なのはまずは悪循環を断ち切ることです。断ち切ると言っても難しいことを考える必要はなく、親子で楽しい時間を過ごせるようにすればよいのです。
しかし、これも人によっては難しいかもしれません。「分かってはいるけど、気持ちがついていかない」という場合は、抱えこまずに相談してくださいね。
【創作事例の紹介】
ここで、これまでのスクールカウンセラーの経験をもとにして1つの事例(創作事例)を紹介します。
中学3年生の男の子A君は長い間不登校でした。しかし、担任の先生がA君を迎えにいくと、不思議と仕方なく登校してくるような子どもでした。そのA君の様子から、A君の場合にかぎっては、先生が迎えに行くことも1つの方法だと(スクールカウンセラーの)私は判断し、担任の先生がA君を連れてくることを支持しました。そして、特別な手立てとして、A君の主体性を育むことを主要な目標にして、私がA君のカウンセリングを行うことになりました。
「自分の人生なんてどうでもいい」と俯いて話すA君に、私は「あなたとこうやってやりとりをしていると、とても力をもっているように思うし、今からでも全然大丈夫だよ」などと肯定的で希望のある声かけを行いました。同時に、A君が抱えているであろう苦しみにも言及しました。
次の時、母子で来てもらいました。私は母子のやりとりに介入し、煮詰まっていた親子関係をほぐすことにしました。そうすると、次第にA君が自分の気持ちや考えを主張するようになりました。A君に主体性がみられはじめたのです。
その姿にお母さんも感動して、お母さんが「今からでも遅くないんだから」とA君に言うと、A君はぱっと顔をあげて、「そうなん?」と言いました。
つかさず私も「全然遅くない。A君の言葉を聞いていると、国語のセンスあると思うし」と言うと、A君も「国語は自信あるな。勉強してなくても大体点数がとれるし」と、自分の長所を言うようになりました。A君の心に“希望”が灯った瞬間でした。
その後、A君は無事に登校するようになり、心配だった面接の練習を私や担任の先生と行い、無事に受験に合格しました。
【終わりに】
このように、主体性を育み、心に希望を灯してあげることが、不登校からの回復には必要です。
ですが、事例を読んでお分かりのように、その具体的な対応は、子どもの力や親子関係、家庭や学校などの環境要因によって、多様で個別的です。
ただ、対応が個別的であるということは、打つ手は絶対にあるということです。不登校で困っておいでの保護者の皆さんには、是非あきらめずに学校やスクールカウンセラーなどの専門家に相談して欲しいと思います。その際、不登校や学校事情に詳しい専門家に相談するようにしてくださいね。 その意味では、病院やクリニックでの不登校相談はあまり適切ではないかもしれません。
また、専門家も様々ですから、自分が良いと思う専門家に出会えるまで、あきらめずに複数の相談機関に通ってみることをお勧めします。
てだのふあカウンセリングルームでは、箱庭療法を受けることができますので、言葉による表現が苦手であったり、十分でない子どもも自己表現が可能です。
箱庭療法を活用しながら、子どもの主体性や「自分」作りを行い、親や大人からの声かけなどを工夫していくことで、主体性や意欲を引き出していきます。
不登校でお困りでしたら、一度ご相談ください。
※不登校の全体的な理解をしたい方、さらに学びたい方は、拙著【「不登校」その理解と対応(2017.9.11改訂)】をご覧ください。
詳細はこちら
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2018-11-03子どもの主体性と不登校(2018.11.03 改定)
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