希望を育む言葉と子育て(2018年10月5日 改訂)
記事カテゴリ:子育て
※本文は、2017年8月26日に記載した文章(「言葉の深みへー希望を生む言葉と子育てー」)を改訂したものです。
【はじめに】
私はスクールカウンセラーとして働くなかで、自分に自信がもてず、自分の将来に「希望がもてない」子どもと出会うことが多いように感じています。カウンセラーという立場なので、そういった子どもたちと出会う比率が多いのかもしれませんが、学校の先生方と話していても、「最近の子どもは自己肯定感が低い子が多い」という感想をよく耳にします。
また、2017年に起きた北海道女子高生2人の自死に関する記事には、「2人には以前から将来を悲観するような言動があった」という記述があり、印象に残りました。人生これからという若い人や子どもが自死で亡くなるというのは、とても胸が痛みます。
サブカルチャーであるアニメは、世の諸相が反映されやすいのですが、年が経つにつて、バッドエンディングや何とも言えない終わり方で終わるアニメが増えてきているような感じがします。「バッドエンディングのほうが心情に沿っていて良い」という人もなかにはいますが、その良し悪しは別として、バッドエンディングの物語の増加は、希望をもてない人が増えている世相を反映しているように、私には感じられます。
なぜ私が「希望」に着目しているかというと、「希望」とは、人が生きるうえで欠かせない酸素や空気のようなものだからです。「希望がもてる」ということは生きる(サバイヴする)上で大切な要素なのですね。
私は日々のスクールカウンセラーの仕事においても、どのように接することが子どもたちに希望を与えられるのかと問いながら仕事をしています。そして、子どもたちにかける言葉を大切にし、言葉をよく選びます。
ここで言う「子どもが“希望”をもてる」ということを別の言葉で表現すれば、子どもが自分の力を信じられることであり、自分の力で状況を変えていけるという肯定的な自己イメージがもてることです。
先の女子高生の自殺にも繋がりますが、バブルがはじけ、社会に希望が見出せなくなった不安なこの時代を生き抜くには、自分の力を信じられることが非常に重要です。自殺を防ぐためにもとても大切なことなのです。
【子どもが希望を持てる声かけ】
では、希望を持てるようになる(=自分の力が信じられる)にはどうしたらいいのでしょうか?その方法について、簡単に解説します。これらを参考に、その子にあった個別的な方法を見つけてもらえればと思います。
❶ 成功体験とスモールステップ
まずは幼少期から成功体験を大切に積んでやることです。成功体験とは、目標や課題を達成できること、達成感が感じられることですが、ポイントは課題のセッティングの仕方です。学校現場では、よく「スモールステップ」と言われますが、達成できる課題内容や課題量、期限にすることがポイントです。1週間頑張るとなる難しい場合に、1日にしてしまうなどです。そうすることで、褒めやすくなりますね。
❷ 子どもとの遊び方
年長から低学年ぐらいの子どもとの遊び方も大切です。年長から低学年の時期にかけて、子どもは発達時期的に自己有能感を育んでいきます。この時期の子どもはよく父親に勝負を挑んでいきますよね。明らかに負けると分かっていても、勝ちにこだわる子が多いのは、この時期の発達上の特徴です。ですから、この時期の子どもとの遊び方は、負けてやることが良いのです。しかし、父親は、面白がって子どもをコテンパンに打ちのめしたりしがちです。子どもとの真剣勝負は、思春期にこそ必要です。
❸ 周囲からの声かけ、言葉がけ
皆さんは子どもが自信をもてるようにどのような声かけをしていますか?もしくは、普段どのような言葉を子どもにつかっていますか?
子どもは幼ければ幼いほど親の言葉に影響を受けます。親に褒められたらそれだけで嬉しいし、怒られたらそれだけで絶望感を感じます。それだけ親の言葉は子どもにとって大きな力をもっています。
私はカウンセリングをとおして多くのお母さん方に出会うなかで、多くのお母さん方があるフレーズを使いがちであることに気づきました。それは「(それじゃ)結局意味がない」というフレーズです。もう少し細かく言うと、「あんたは自分では頑張ってるつもりかもしれへんけど、学校に行けなかったら結局意味ない。一緒や」というものです。
この「結局意味がない」という言葉は、子どもにとっては非常に残酷です。「私がやってたことは結局意味なかったんだ…」という認識を子どもに与えてしまいます。親としては何気なく、つい勢いで、もしくは発奮させるつもりで言っただけなのかもしれませんが、子どもには「あなたの努力は無意味だった」というメッセージで伝わります。その結果、子どもは「どうせ」「僕なんか何やってもしょうがない」「無理」と言うようになり、あきらめがちであったり、無気力であったり、回避しがちな子どもになってしまいます。
叱責や励ましなどの強い言葉は、自己肯定感が高い子どもには効き目がありますが、自己肯定感が育っていない子どもに使用すると、追いつめてしまったり、マイナスに働くことが多いと言われています。つまり、子どもがどのような子かを見極めたうえで言葉を選ぶ必要があるのです。
言葉というのは、使い方次第で非常に力をもちます。あまり良い例ではありませんが、言葉は身体的な暴力以上に心に大きな傷を与えることも可能です。
私が出会った子どものなかには、親から「あんたには薄汚い父親の血が流れている。あんたの中にそんな血が流れていると思うだけでゾッとするわ。全部抜いてやろうか」と言われ、その言葉をずっと心の中でひきずり、苦しみ、自傷行為など、大きく調子を崩してしまっていた子どももいました。
ですから、子育てにおいては言葉をよく考えて選ぶことが必要です。「親がどうして子どもに気を遣わなければいけないのか」と思う人もいるかもしれませんが、「子どもに気を遣う」のではなく、「子どもを思い遣る」と考えるとどうでしょう。感情のままに言葉を発することは、親自身の感情の発散にはいいかもしれませんが、気づかないうちに子どもを深く傷つけてしまっているかもしれません。
以下に、子どもに“希望”を与える声かけを列挙しています。参考にしてください。
❶「一生懸命頑張ったね」とプロセスを褒める。
❷最終できたことを具体的に褒める。
❸幼い子どもが拾ってきた落ち葉を、「そんなものは捨てなさい」と言うのではなく、「綺麗ね」「美しいね」と褒めて大切に扱う。
❹魅力や良いところを日々伝えるようにする。
❺褒めポイントを日頃から増やす。
❻「○○してはいけません」と禁止言葉を使うよりも、「次からは○○しようね」と、望ましい行動を具体的に伝える。
❼叱るときは人格を否定しない。「だからお前はダメなんだ」のように、「お前」と「ダメ」を一緒に使わない。「嘘をつくのはダメだ」のように、「ダメ」などの否定語は行動に結びつけるようにし、人格に結びつけないように気をつける。
❽叱るときは、なぜ叱っているのか、子どもの理解力に応じた言葉をもちいて、具体的に伝えるようにする。
【終わりに】
❸について、少し解説して終わりにしたいと思います。
幼稚園ぐらいの幼い子どもが、そこらへんに落ちている落ち葉を拾ってお母さんのもとにもってくることがありますよね。このとき、多くのお母さん方が、「綺麗ね」などと声をかけていると思います。この何気ない声かけこそがとても大切なんですね。
お母さんに「綺麗ね」と言われるまでは、子どもの手にあるその落ち葉は、"タダ"の落ち葉でした。ところが、お母さんに「綺麗ね」と言ってもらった瞬間に、その"タダ"の落ち葉は"宝物"に変わったのです。お母さんの言葉ひとつで、子どもの表情は一気に明るくなり、笑顔が生まれたのです。この子どもの体験をカウンセラーの視点から言い換えるならば、子どもは「自分(という存在)はお母さんに愛されている」という体験をしたのですね。
子どもの笑顔は希望の象徴です。そして、自分に自信がもてるようになると、心身の不調は自然に治癒していきます。しかし、希望を生む言葉を用いるためには、一人一人の繊細な努力が必要です。言葉を大事にしない人は、相手の心を大切にすることはできません。ネット社会になり、言葉が煩雑に使用されている時代だからこそ、言葉を大切にしていきたいですね。
てだのふあカウンセリングルーム
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