『ハウルの動く城』に学ぶ掃除のススメ ー 自分でできる心の処方箋 ー
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本記事では、掃除の意義について、宮崎駿監督作品の『ハウルの動く城』を題材に解説しています。
【はじめに】
皆さんの中には、本記事タイトルを読んで、「そんなの当たり前じゃないか」と思った方もいると思います。ただ、「当たり前」で終わらせず、掃除することがどのような心理学的意味をもち、心の作用をもっているかを知っておくことは有益だと思います。
また、掃除は誰でも行える簡単な行為です。カウンセリングに来る方は、「もうどうしたらよいのか分かりません」などと、身動きがとれない状態になってから来られる方が多いです。何か良い方法はないものかと、藁にも縋る想いで相談に来られる方もいます。そのような方に対して、「有効で、かつ実践できる具体的な対応法がなにかないのか」と問い続けた私の答えの一つが[掃除]でした。
掃除を具体的な対応方法として積極的に助言しているカウンセラーは少ないと思いますが、掃除は非常に有効なんです。ご関心をもたれた方は、以下の記事をお読みください。
本記事が、皆さんの生活に役立てば幸いです。
【『ハウルの動く城』に学ぶ】
さてここで、『ハウルの動く城』を題材に、掃除の意義について学んでいきたいと思います。
『ハウルの動く城』の主人公であるハウルは、幼少期の人生の辛さから、カルシファー(悪魔)と契約を結び、サリヴァンも認める優秀な魔法使いになりました。町を爆弾で焼く怪物たちと戦うハウルは、「英雄」でもありますが、一方で、その格好は「ピエロ」そのものですよね。英雄とピエロ・・・つまり、ハウルはアダルトチルドレン(AC)でもあるのです。
そして、ハウルは掃除が大の苦手です。ハウルが住む動く城は、ガラクタだらけで、埃まみれで、虫が巣食っていたりします。実はこのハウルの動く城の外見や中身は、ハウルの心の状態を表しています。舌をべーっと出しているその様は、おどけている子ども(=ピエロ)のようですよね。つまり、ハウルの動く城の中がとても汚いということは、ハウルの心が相当に蝕まれていることを意味します。このままでは自身も怪物になってしまうほどの心の闇をハウルは抱えていたのです。
そのハウルの動く城に、ある時老婆になったソフィがカカシの案内で入ってきます。ソフィは動く城の部屋の汚さを見て驚き呆れかえります。ソフィは、自分に呪いをかけた荒れ地の魔女に憤怒した後、徹底的に部屋の掃除をはじめます。そして、その後ハウルは自身の魔法を使って部屋や家具を綺麗に整えていきます。ACであるハウルはソフィと出会うことで"自分"を取り戻し、物語は大きく動いていくことになるのです。
ここで私がお伝えしたいのは、部屋の状態と心の状態は密接に関連していること、物語が大きく動くきっかけが掃除にあったことです。実際、物語のなかでも、ハウルの動く城の内部や外見が変化とハウル自身の変化は、相互に影響しあって変化していきます。
【掃除の意義】
人は調子が悪くなると、大体部屋や家が散らかってしまうものですよね。なので、その人の部屋の綺麗さを聴けば、その人が調子が良いのかどうか、心が散らかっているのかいないのかどうか、が分かるのです。実際、不登校や引きこもりの子どもの部屋の状態をきくと、大抵散らかっていることが多いのです。もし散らかっていないという場合は、その子が良くなる良い見通しがもてます。そのぐらい、掃除の有無、部屋の綺麗さは重要です。
また、掃除は気の流れ、心のエネルギーの流れを良くしてくれます。掃除をし終わった後は、皆さんも心がスッキリし、なんだか気持ちが前向きになりますよね。掃除は気持ちも整えてくれるのです。風水的に言えば、掃除は運気をあげてくれます。さらには掃除をすることで、そこを利用するすべての人が気持ち良く感じ、気が良くなり、エネルギーの流れが良くなります。掃除は自分だけでなく、そこを利用するすべての人に良い影響を与えることができる優れものなのです。
ですから、私がスクールカウンセラーの勤務先の学校で最初にすることは、カウンセリングルームの徹底した掃除です。相談に来られる方を迎え、守ってくれる大切な空間ですから、当然です。学校の先生方にその意味を丁寧に説明して、スリッパを新丁するなど、相談室を一緒に整えてもらったりもします。
また、ある中学校で勤務した時には、2年近く校内や運動場のゴミを拾い続けたこともあります。その様子を見た生徒が、「掃除のおじさんや。綺麗好きなん?」などと声をかけてきたり、先生から「先生はカウンセラーとして来てるのに、なんでこんなことしなきゃいけないんだとか思ったりしないんですか?」「綺麗好きなんですね」などと声をかけられたこともあります。私が掃除をしていると、このようなコメントが意外に多いので、私は「案外に多くの人が掃除の大切さを分かっていないのかもしれない」と思うようになったのです。
学校が荒れる時は、必ずと言っていいほど、ゴミがそこかしこにおち、学校という空間が汚れた状態になっています。優秀な校長先生は率先してトイレや校内の掃除をされます。そうして、学校が落ち着いていく光景を私は何度も見てきました。ここでも、肯定的な変化の始まりが掃除であったことは注目すべきことです。
また、中学生の不登校生徒が不登校から登校にするようになるプロセスのなかにも掃除が見られます。自分の部屋を整え、片づけはじめたり、勉強机を整頓したり、今まで近寄りもしなかった部屋に行き、掃除したり。また、掃除ではないですが、パンクしたまま放置していた自転車を修理したり、長い髪の毛を切ってきたり。このように、物や空間を綺麗に整えることは、心を整えるうえで非常に意義あることなのです。
【掃除のポイント】
ですから、子どもの不登校でお困りの方がおられたら、おススメしたいのが家の掃除です。なかでも、生活の主要な箇所(トイレ、お風呂と洗面所、台所と食卓、リビング)の掃除です。また運気をあげるという意味では、玄関の掃除もいいですね。
不登校の子は、最初は掃除のやる気がないので、子どもを掃除にのせる必要があります。なので、最初は親がやってみせるのです。子どもに変化を起こすには、まずは親が変わること、動くことが鉄則です。すると、その空間の変化に子どもは気づくはずです。
掃除は、言い換えると「手入れ」と表現することができますが、すごく荒れている学校でも、手入れされている花壇は荒らされないのですね。「手入れ」には人の想いが籠もっていますから、普段反抗している子どもたちもそういう人の想いは分かるのです。むしろ、反抗している子どもたちにとって一番必要なのは、そのような"想い"なのかもしれません。
このように、子どもはお母さんの想いを部屋の掃除から感じとるはずです。しばらく掃除をしっかりする日々をつづけ、少し様子をみてください。もしかしたら自分から掃除をはじめるかもしれません。
また、子ども本人に掃除をさせる直接的な方法もありです。その場合は、子ども自身が利用する頻度が高い場所、その場所が綺麗になると子どもが気持ちよくなる場所にすることがポイントです。子ども自身の部屋か、ゲームをしているリビングなどでしょうか。子どもが掃除しそうであれば、トイレや食卓なども良いでしょう。しかし、何より達成できることが重要ですから、最初は掃除する箇所を1つだけにすることもポイントです。そして、子どもが掃除し終えたときには、「綺麗になったね~。気持ちイイね」と気持ちを込めて伝えてください。おやつやジュースとかを出すとより効果的です。子どもが「綺麗ってこんなにも気持ちいいんだ」と実感できる関わりをしてください。ただし、押しつけにはならないようにしなければなりません。このようにして、どんどん子どもの心に肯定的な変化をあたえていくことが望ましい対応です。
ですが、掃除は、心の問題と向き合う作業でもありますから、わりとエネルギーが必要です。そのため、一度に全部を掃除しようとすると、気持ちが萎えてしまいます。ですから、「1日これだけはする」と少ない量にして掃除していくことが良いと思います。
【終わりに〜ゴミの心理学的意味〜】
終わりに、ゴミの心理学的意味について、少し考えてみたいと思います。
生き物に備わっている排泄機能である排便や排尿は、心の状態と密接に関わっていますよね。ゴミも排泄行為と捉えることができますから、ゴミの内容や状態は、心の不調を表していると考えられます。そして、 ゴミにはゴミを捨てた人の心がこもっています。
私がある小学校の高学年の教室に入った時のことです。給食の時間だったのですが、2人の男の子が教室の後ろの棚の上に座って、近くで給食を食べていた男の子をめがけて、給食のパンをちぎって投げていたのですね。いじめが起こっていたのです。
私はまず給食を食べていた男の子と、後ろの棚にいた2人の男の子の間に自分の身体を入れ、とりあえずは給食を食べていた男の子を守りながら、私は2人の男の子にすぐに注意することはせず、2人の男の子にどう接するかを考えました。すると、一つの連想が湧いてきたのです。「この子たちは自分の命になる食料を捨てている」と。そう考えると、なんだか投げ捨てられたパンくずには、男の子たちの心の傷が感じられるような気がしてきたのです。
その連想から、私は床に落ちたパンくずを拾い集め、ゴミ箱に捨てることはせず、ポケットにいれました。その後、2人の男の子に「大切なパンなのに食べないの?」と聞くと、質問には答えず、パンくずを投げることはやめて、ご飯食べていました。
クシャクシャにして捨てられた答案用紙、抜きとられた髪の毛など、私たちが"ゴミ"と呼ぶものには様々なものがありますが、なかには子どものどうしようもない想いや心の傷が込められている"ゴミ"もあります。
また、ゴミはストレスとも関連しています。自分では抱えきれなくなった心のストレスが、ゴミとなって表れているのです。
このように、ゴミを投げ捨てた人の心に想いを馳せてみると、掃除の意義がより理解できるのではないでしょうか。ソフィは知らず知らずのうちに、ハウルの心を綺麗にしていたのですね。
以上で終わりになりますが、掃除の意義について伝わりましたでしょうか。
もし不登校や家庭内暴力などでお困りの方がいらっしゃれば、是非意識的に掃除(=「手入れ」)を取り入れてみてくださいね。綺麗に手入れされた空間で、皆で美味しくご飯を食べられるとさらにイイですね。
てだのふあカウンセリングルーム
2017-07-31『ハウルの動く城』に学ぶ掃除のススメ ー 自分でできる心の処方箋 ー