こころに響く言葉 ~「問い続けること」と「リアリティ」~
記事カテゴリ:雑感記事
さて、今回は
こころに響く言葉 ~「問い続けること」と「リアリティ」~
と題して、
「こころに響く言葉を用いるために必要なこと」について述べていきたいと思います。思春期の子どもを育てている方、「生きる意味が分からない」と実存的な主題に悩んでいる方、教師・カウンセラーをはじめとした対人援助職の方、などに参考になると思います。
では早速ですが、実際にあった私と子どもとのやりとりを簡単に紹介します。
中学生の女の子がある時期から急に「なぜ人間は死ぬの?」と毎日怖がっていて調子を崩すといったことがありました。先生は先生なりに彼女に声をかけていたのですが、一向に収まる様子がなく、私のもとに「どうしたらよいのか」と相談にこられました。私は、彼女のもとを訪れ、<死ぬのが怖いの?>ときくと、彼女はコクっと頷きました。私は、彼女は簡単には言葉にできない死の恐怖を抱えていると思い、<死んだらどうなるか分からないから怖いのかな?>と問いかけると、コクコクと2回頷きました。次に<死ぬことも怖いけど、”分からない”ということが怖いよね>と声をかけると、じーっと考えていました。私はさらに続けて、<こればっかりは誰にも答えが分からないから、自分で考えつづけるしかないけど、怖くなったり、自分がおかしくなりそうだったらいつでもおいでね>と声をかけて、その場を去りました。その後、彼女が先生に死の不安を言うことはなくなり、次第に調子をもどしていきました。
それではなぜ、先生が彼女にいろんな声かけをしていたにも関わらず、彼女は一向に落ち着かず、私とのやりとりで彼女は落ちつくことができたのでしょうか?
(※私とのやりとりで彼女が落ち着いたというのは、私の見解でしかすぎません。)
そのことについて、今から解説していきたいと思います。
言葉というものは、全く同じセリフであっても、誰が言うかによって、全く響き方が変わってきますよね。皆さんも日々実感していることと思います。誰が言うかによって言葉の響き方が変わるのは、その人と自分との関係性(信頼関係など)もあるのですが、一番大きな要因としては、言葉を使う人がその事柄について、どれだけ「悩み苦しみ問い続けてきたか」ということがあるのです。
「悩み苦しみ問い続ける」という行為には、悩み苦しんだ実体験(リアリティ)が存在します。そして、悩み問い続けてきた年月の重み(想いの深さ)、問い続けることによってうまれた深みがあります。自身の体験に照らしあわせ問い続けた人が言葉を用いると、言葉は軽くならず、深みを増し、重くなるのですね。ですから、相手のこころに響くのだと思います。
このことは教師とお坊さんを思い浮かべて頂くと分かり易いかもしれません。
教師というのは、「教える」ということが仕事です。「教える」という行為は、行為そのものによって、自分が「分かった気になる」リスクがあります。教師が、自分の体験をベースにして、問い続けた末に生まれてきたことを教えているのなら良いのですが、勉強した知識を自身の体験に照らし合わせ十分に問うこともせずに教えてしまうと、言葉は非常に軽くなり、時に的外れなものになってしまいます。「教える」という行為そのものが、自分は正しいことを言っていると錯覚させ、自身の考えを狭めてしまうのですね。
ここでまた1つのエピソードをお話しします。
東日本大震災で福島に支援に行った際、「原発は安全だ」と子どもたちに教えてきたことに深く苦悩していらした先生に、私は出会いました。その先生は、「もう先生をやめたくなる」と教師という仕事に深く悩むようになっていました。 また、ある先生は、「教師というのは、自分の考えが正しいと思っていて、自分の考えを間違っていると認めることは本当に大変な作業なんです。教師にとって自分の考えが間違っていたと認めるのは、大きなストレスで大病を患うほどのことなんです」と言っていました。
また、「教える」という行為の弊害は、カウンセラーも無関係ではありません。カウンセラーの業界ではほぼ一般常識なことですが、「大学の講師や教授になると、カウンセラーとしての実力が落ちる」と言われています。その理由は、「カウンセラーの本質的な仕事は、答えられない(その人にしか答えを出せない)悩みに寄り添うことだから」です。それが、教授のような教える仕事につくと、教えるという行為を日々重ねていくことによって、分かった気になってしまい、やりとりも用いる言葉も表面的になってしまうのですね。ですから、特に教える立場にある人は、自身の研究成果等から出した答えを絶対だとは思わず、開かれた態度で謙虚に問い続けることを大切にしなければなりません。
お坊さんは、厳しい修行を重ね、体験をとおして「死」や「苦」というものを問い続ける職業です。毎日人の死に接していますから、自然に言葉に深みがでます。
けれども、あるお坊さんに出会ったときのことですが、私にはそのお坊さんの言葉が非常に軽く感じられたことがありました。「お坊さんと言っても、やはり分かった気になって問い続けていない人の言葉は響かないな」と思ったのでした。
私自身は?というと、「死」については、小学2年生の頃から今日に至るまで、ほぼ毎日といってよいほど、問い続けています。子どもの頃は、死のあまりの恐怖に苦しんだこともありましたが、問い続けているうちに、少しずつ穏やかになり、石のように硬直した母の遺体に触れた時には、「(死ぬとは)そういうことか」と言葉ではなく感覚のレベルで腑に落ち、感覚レベルで落ち着いたので楽になりました。
また、相手に響く言葉を使うことは、思春期の子育てにおける大切な要素です。表面的なやりとりでは、思春期の子どもは納得しないのです。知識で得た言葉よりも、親が自身の人生から湧き出た言葉をもちいるほうが、思春期の子どもの心には響きます。
唐突ですが、私は美空ひばりさんの歌が好きです。美空ひばりさんの歌が心に響くのは、美空ひばりさんが戦争をはじめ、大変な体験をしながら、自身の体験に向き合い問い続け、さらには「希望」を与えてくれるからだと思います。
宮崎駿監督の作品が感動的なのも、作品たちが宮崎駿監督の生き様に支えられているからだと私は思っています。
心理学の分野のなかでは、ユング心理学(分析心理学)の創始者であるカール・グスタフ・ユングが、私とってはそうだと言えるでしょう。ユング心理学がその人の体験を大切にし、問い続ける姿勢をもった心理学である点が、私がユング心理学に親しみを感じる理由の1つです。
自身の体験に照らし合わせて問い続けることは、言い換えれば、悩み続けることと言えるかもしれません。その意味では、悩み続けることは大切な行為です。決してネガティヴなことではないのです。悩み続けることで、人としての深みが増し、人生が豊かになることでしょう。
しかし、悩み続けることは非常にエネルギーがいることです。時には疲れ果て、心がもたなくなることもあるかもしれません。そのような時は、どうぞカウンセラーを頼ってくださいね。
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2017-07-21こころに響く言葉 ~「問い続けること」と「リアリティ」~
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