アンガーマネジメントスキルと勝ち負けのコミュニケーション
記事カテゴリ:心理カウンセリング
今回は、みなさんに是非知っておいてもらいたい観点ー「勝ち負け」のコミュニケーションーについてお伝えします。この「勝ち負け」のコミュニケーションや価値観について知っておかないと、アンガーマネジメントやアサーティブコミュニケ―ションといったスキルがうまくつかえないので、知っておいてください。
● 人間関係を悪くする「勝ち負け」のコミュニケーション
最近、私が注目している不登校の理由の1つに、「勝ち負けのコミュニケーション」があります。アドラー心理学を紹介した名著『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)でも指摘されていることですが、子どもだけでなく大人も含めて、実に多くの人が「勝ち負けのコミュニケーション」をしています。子どもで言えば、「勝ち負けのコミュニケーション」の代表的なものは「あおり(挑発)」です。大人の世界で言えば、YouTubeなどのSNSで、「論破王○○」と名づけたり、「○○が△△をフルボッコ!」、「○○と△△の芸人の格の違い」などというタイトルづけにあらわれています。わざわざ他人ごとに口をだし、他人を格づけし、面白がるのですね。格付けしたがる人は、人間関係を上下関係で考える傾向が強いです。
「勝ち負け」と似たような言葉をあげれば、「優劣を競いたがる」「上下をつけたがる」というものです。人間には「他人より優れていたい」という欲求があります。動物の世界で言えば、縄張り争いにおける本能的な行為でもあるのですが、多くの人が「他人より優れていたい」「勝ち負けのコミュニケーション」の心理にハマってしまっているのです。
たとえば、親子喧嘩や夫婦喧嘩を考えてみると、喧嘩のもともとの理由であった内容はそっちのけになり、「俺は間違っていない。間違っているのはお前だ」というような、「どっちの方が正しくて、間違っている(悪い)」という言い争いになっていることがよくありませんか。
「勝ち負けのコミュニケーション」は、劣等感から派生した自分の優越欲求を満たしますが、相手を傷つけます。
また、「勝ち負けのコミュニケーション」にとらわれている人と話すと、「話が通じない」と感じることも多いです。
勝ち負けのコミュニケーションは、不登校、いじめなど、実に多くの社会問題につながっています。夫婦や親子関係をはじめ、自身の対人コミュニケーションが「勝ち負けのコミュニケーションになっているな」と気づくことがあれば、以下に書いているアイデアを参考にしていただき、対人関係のコミュケーションについて見直してみてください。
● 私の気持ちの伝え方 - アサーティブ・コミュニケ―ション -
アサーティブ・コミュニケ―ションとは、「自分も他人も尊重して、私の気持ちを相手に伝えるスキル」です。アンガーマネジメント(コントロール)にも含まれているスキルになります。
アサーティブ・コミュニケ―ションの方法は、腹がたつことがあった際などに、まず①具体的な事実を伝え、②怒りの奥にある気持ち(心配、不安、期待など。これを「一次感情」と言います)を「Iメッセージ」で伝え、③相手にどうしてほしいかを具体的に伝えます。この方法を「DESC法」と呼びます。
最初に具体的な事実を伝えるのは、事実の認識に相違があると、話そのものが成り立たなくなるので、具体的な事実を伝えて、事実認識を共有したうえで話をすすめることが重要だからです。例えば、夫に「嫌なことを言ってきたよね」と漠然と伝えるのではなく、「昨日、あなたは私に「俺は一生懸命働いているんだから、家事はお前の仕事だろう」と言ってきたよね」と具体的に伝えます。
「Iメッセージ」とは、「私は~」という言葉を冒頭につけて話始めるスキルです。「私は~」と言う言葉をつけることで、相手を責めるような言い方を防ぐことができます。
また、相手の立場にたった言葉をそえることも大切です。こんな風に伝えます(次ページ)。
① 具体的な事実:昨日の夜、あなた(夫)は私に「俺は一生懸命働いているんだから、家事はお前の仕事だろう」と言ってきたよね。私は短時間かもしれないけど、パートで働いてもいるのは当然知っているよね。
② それで、私はその言葉を言われて、私はとても傷ついたし、「分かってもらえてないんだな」と思って悲しくて、寂しくて、腹が立って。
③ あなたは確かにフルタイムで一生懸命仕事して、あなたがとても大変な思いをしているのも分かるのだけど、私の大変さも理解して、言葉を選んで言ってほしい。
いかがですか。怒りの奥にある気持ち(一次感情)を言葉にすること、「Iメッセージ」で気持ちを伝えること、さらには相手の立場にたった言葉を添えることで、「勝ち負けのコミュケーション」にならないのです。このアサーティブ・コミュニケ―ションが自然に行えるようになると、親子関係、夫婦関係など、対人関係がうまくいくようになります。アサーティブ・コミュニケ―ションはスキルですから、練習が必要です。うまくいかなくても落ち込まず、トライした自分をほめましょう。是非実践してみてください。
ここでとても重要なことをお伝えします。
アサーティブ・コミュニケ―ションを行ううえでとても大切なポイントは、「私と相手は対等である」という認識、価値観です。アサーティブ・コミュニケ―ションがうまくできない人は、相手との関係を「上下」で見ている可能性が高いです。振り返ってみてください。
● 子どもの気持ちの受け止め方 - 共感的理解 -
さきほど「Iメッセージ」で気持ちを伝えることを話しましたが、相手の話を聴くときは、「Youメッセージ」を使います。「あなたは~」という言葉を冒頭につけて応答します。たとえば、子どもがいじめについて言ってきた場合に、こんな風に応答します。
わが子:あいつ、おれのこと馬鹿にしてて、めっちゃむかつくから、みんなでいじめたるねん!
私:(いじめはよくない!と言いたい気持ちをこらえて・・)そうなんや。あんたは、あいつのことをいじめたいぐらい、むかついてるんやなぁ。
いかがですか。この「Youメッセージ」を使った応答を、「共感的理解」と言います。「共感的理解」と「共感」は違います。「共感」は、「私もあなたと同じように思う」ということです。例でいうと、私もあいつのことをいじめたいという気持ちになる、ということです。
「共感的理解」のコミュニケーションを行う背景には、「あなたと私は違う人間である」という価値観があります。私はあなたと同じようには思わないけど、あなたはそのように思うんだね。分かったよ」と、相手の立場にたって、相手の気持ちに理解を示すのが「共感的理解」です。
「共感的理解」が自然にできるようになると、対人関係がうまくいきやすくなります。とりわけ、思春期の子どもと関わるときには役に立つコミュニケ―ションスキルです。これも是非トライしてみてください。
てだのふあカウンセリングルーム
2024-06-10アンガーマネジメントスキルと勝ち負けのコミュニケーション