「不登校」その理解と対応(2017.9.11改訂)
記事カテゴリ:子育て
【記事の再改訂について】
以前(2017年5月)に書いた不登校に関する記事を改訂した第2版です。
不登校に関する文科省の発表に応じた内容に修正するとともに、分かり難かった箇所も分かり易く書き直しました。
不登校の理解と対応に関して、文科省の施策から現場における対応まで、全体的に網羅した内容となっているため、長文になっています。
子どもの不登校でお悩みの保護者の方や、学校の先生をはじめとする不登校支援の関係者の方々に、お読み頂けると幸いです。
【はじめに】
スクールカウンセラーの仕事をしていて多い相談の一つが、子どもの不登校についての相談です。
本記事では、これまでの不登校相談の経験を活かし、スクールカウンセラーの立場から、「不登校の理解と対応」について解説します。
【不登校の状況】
2018年10月25日に文部科学省によって公表された「2017年度の問題行動・不登校調査」では、年間30日以上欠席した「不登校」の児童・生徒は、前年度比6.3%増の19万3674人で、過去最多となったそうです。
一方で、学校が出席扱いと認定したフリースクールなど学校外の民間施設へ通う児童・生徒も増え続けている状況にあります。
不登校は小学校で3万5032人、中学校で10万8999人、高校で4万9643人。そのうち、年間授業日数の約半分に当たる90日以上欠席したのは、5割弱にのぼるとの報告でした。
※不登校に関する2018年11月時点における速報値はこちら↓ (毎日新聞 2018.10.26)
詳細はこちら
【文科省の不登校施策の大転換】
なぜ、これほどの勢いで不登校の数が増え続けているのでしょうか?
私は「その背景に文部科学省の不登校施策の大転換がある」と考えています。
不登校の施策を巡っては、旧文部省が1992年、子どもが学校外の施設に通う場合、「保護者と学校が連携している」「通所施設で相談、指導を受ける」ことなどの要件を満たせば、校長が出席扱いにできるとの通知を出しています。
その後、フリースクールなどの校外の施設が相次いで開設され、出席扱いとされる児童・生徒も右肩上がりとなり、1992年度の7424人から、2017年度は2万346人となりました。
1992年の通知では、要件に「通所が学校への復帰を前提としている」ことを挙げていたのですが、文科省は「復帰を前提とすると子どもを心理的に追い詰める」などの意見を受け、2017年3月に「教育機会確保に関する基本指針」を策定。不登校の支援策を「登校という結果のみを目標にするのではない」とし、校外の施設を多様な学習環境の場として積極的に容認していく方針に切り替えました(「毎日新聞 2018.10.26」より)。そして、「不登校は問題行動ではない」とし、不登校の状態を「その学校の環境がその子にあっていないために不登校になった」「子どもが学校に行かないという選択をした」というスタンスが、現在の文科省の不登校施策です。
【問われる学校教育とさまよう不登校対応】
ここで私が文科省の施策を取りあげるのは、文科省の施策を見ても分かるように、「学校に行くことは当たり前ではない社会」になりつつあることをお伝えしたかったからです。不登校の状態には様々な様態があるにも関わらず、文科省が率先して学校に行かないことを尊重することを宣言してしまったのですから、「学校に行くことが当たり前ではない社会」の流れをとめることはできないでしょう。
そのため、「学校は行くものでしょ」という言葉は、今の子どもたちには響きにくい状況になっています。こうした背景から、不登校の対応に際しては、保護者や学校それぞれが「学校教育についてどのように考えているか」が非常に問われる状況になっています。そして、文科省の「学校環境要因論」は、まだまだ多くの保護者や学校現場の先生方には浸透していないため、異なるスタンスが混在することとなり、不登校対応が右往左往してしまっているのではないかと思います。
そして、社会環境や価値観が多様化している現在、学校教育のあり方が問われていると言えます。現在の不登校対応の不透明さは、社会変化に応じて、学校教育が変わろうとしている過渡期によるものと言えるのかもしれません。
【「学校環境要因論」をめぐって】
ここで少し余談になりますが、文科省が掲げる「学校環境要因論」について触れておきたいと思います。
「学校環境要因論」の考えは、学校以外に子どもたちの居場所をつくり、ひきこもりを防ぎ、学習支援をするという面では、確かに大事な施策です。
一方で、詳述は控えますが、「枠組みを守る」という行為は、子どもの成長を支えるうえで非常に大事な視点です。「学校環境要因論」の考え方は、不登校になった一部の子どもの立場にたつあまりに、「文科省自らが学校教育という枠組みを壊してしまった」ように見えます。実際、専門家からも様々な意見が出ています。
私的な意見としては、 別室登校の充実をはじめ、学校内に子どもたちの居場所をつくること、決め細やかな学習支援をしていくこと、そのためにも教員の数を増やすこと等、文科省が以前から掲げている「魅力ある学校作り」をさらに協力に押しすすめることをして欲しいと思います。
もちろん学校現場の先生方の意識改革も必要です。残念なことに、学校の先生に傷つけられたり、いじめによって不登校になる子どももいますので、学校外の受け皿を充実させることも必要でしょう。実際に、「今の子どもの状態や学校状況を考えると、保護学校復帰はあきらめてフリースクールに通う方が子どもにとってよい」と助言することもあります。
しかし、不登校の様態は様々であり、健やかな成長を育むために「枠組みを守る」という視点も考えて、支援策を考えて欲しいと思います。
とは言っても、不登校対応の難しさは、そもそも不登校が複合的な要因によって生じていることに起因しています。それは不登校の歴史的変遷にも見てとれます。
【不登校の歴史的変遷】
不登校は、1970年代当時「登校拒否」と呼ばれ、「学校に行きたいけれど行けない」などの本人の意志や神経症的な側面が強調され、不登校の理解や対応の中心になっていました。しかし、社会環境が変化するとともに、「登校拒否」という表現にあてはまらない状況が多く認められはじめ、学校に行かない要因が多様化してきたため、1990年に入ると、多種多様性を包含する言葉として、「登校拒否」から「不登校」と呼ばれるようになりました。
【不登校対応の難しさ-さまよっている現状-】
不登校の歴史的変遷をみても感じられるように、不登校現象は社会的な要因をはじめ、気質といった個人的な要因など、様々な要因が絡み合った結果としてうまれます。そのため、一口に「不登校」と言っても、不登校状況は多種多様であり、不登校の対応方法は、多様性に応じた個別的なものとなります。
ですから、不登校の対応には、不登校状況の適切な理解がまずは重要です。2016年度の文科省の反省においても、「不登校の効果的な対応には、不登校状況の適切な理解が第一に重要である」と述べられています。
不登校の対応は、この多種多様な状況を適切によみとり、個別的な対応を模索していく必要があるため、それができる専門家でなければ、実効性のある対応は難しいのです。
以上、不登校対応の難しさとその背景にある問題について、簡単にお伝えしました。それでは、私が考える「不登校の理解と対応」について解説していきたいと思います。
【不登校の理解1 「本人」と「環境」の相互作用という視点】
不登校の問題にかぎらず、問題というものは、「本人」と「環境」という切り口で考えると分かり易いです。
不登校は、極端な表現をすれば、「○○学校という環境に不適応を起こしている状態」と言えます(※文科省は、2016年に不適応という理解が不適切だとする通知を出していますが、私は一部異義があります)。
不登校を環境に対する不適応と考えると、例えば、❶仲の良い子と同じクラスにしてもらう、❷ベテランの先生に担任をしてもらう、❸転校する、などの「環境へのアプローチ」が対応方法としては分かり易く、実行しやすいですよね。これら「環境へのアプローチ」が、おそらく、保護者の方や学校の先生方がまず思い浮かべる対応方法だと思います。
また、専門家のなかでも、応用行動分析に基づいた対応方法(行動に焦点をあてて対応を考える方法)を主としているカウンセラーの場合は、❹教室内の環境を整えたり、❺担任や周囲のクラスメイトの関わりを工夫するといった、環境の改善を中心とした対応方法を考えるでしょう。
実際、不登校対応における一番簡単な方法は、本人に合った環境を用意することなのかもしれません。何故なら、小中学校で不登校だった子どもの多くが、高校には通えるようになるからです。高校は、小中学校と違って選べます。自分の好きなことが学べる高校を"選べる"ので、小中学校に比べると、自分にあった環境である高校には行きやすいのです。
【不登校の実際】
けれども、環境を変えるというアプローチの実際はどうでしょう?親の立場からいえば、転校もそう簡単ではないと思いますし、「転校したからといっても、また同じ状況になるかもしれない」「不登校の要因はもっと根本的なところにあるんじゃないの?」と思う人もおられるのではと思います。
また、親にとっては、高校まで不登校状態をつづけ耐え忍ぶというのは、非常に不安で心配なことですよね。そして、子ども自身も不安で心配になっていると私は思います。
それに、環境に対して多くの改善をおこなってきたにも関わらず、子どもが一向に登校するようにならないという場合も少なくないと思います。だからこそ、多くの方が我が子の不登校のことで悩むのではないでしょうか。ですから、環境を変える方法だけでなく、やはり子ども本人の変化や成長を促すようなアプローチも大切です。
そこで、「学校家庭環境本人相互作用論」と題して、学校環境要因だけではない、家庭環境や本人要因も含めた不登校の理解の仕方を解説していきたいと思います。
【不登校の理解2 本人要因と家庭要因】
一般に、子どもが学校に行かない“きっかけ”は、学校の要因であることが多く、大別すると、⑴勉強が分からないなどの学習上の悩み、⑵友達関係などの対人関係上の悩み、に大別されます。
学校要因が不登校の“きっかけ”であり、“主たる要因”である場合は、さきほどの環境へのアプローチが有効です。しかし、「環境を改善してもなかなか登校しない 」場合や、子どもの訴える内容がコロコロ変わる場合は、子ども本人の要因を考えることが、具体的な対応方法を模索するうえでも有益です。
ここでいう”子ども本人の要因”とは、⑴家庭環境上の悩み(母子分離不安、両親の不和、虐待など)、⑵発達上の悩み(知的能力にアンバランスを抱えている(”発達障がい”など)、⑶主体性が育っていない(嫌なことから回避したがる、自己表現・自己決定が少ない、など)、に大きく分けられます。
【両親の不和と不登校】
ここで、「両親の不和が子どもの不登校になぜ関係しているのか?」と疑問に思われた人もいるかもしれませんね。また、親からすれば向き合いたくない内容であるかもしれません。ですが、当然、子どもにとって両親の仲は非常に大切です。両親が毎日喧嘩ばかりしていて、家の空気が冷たいものであるだけでも、子どもは気持ちの面で疲弊していきます。すると、朝起きて頑張って登校しようという気力が湧いてこないのです。
両親が不和である場合、子どもは家庭で気を遣って育つ場合が多く、学校でも気を遣って過ごしているうちに息切れしてしまい、不登校になる、といった場合もあります。また、親の顔色や家庭の空気など、周囲に気を遣い、家庭の空気を明るくしようとするなど、周囲にエネルギーを注ぐので、自分を育むことにエネルギーが注げず、主体性が育たず、主体が必要とされる事柄や時期を迎えたときに、つまづいて不登校になる場合もあります。
❻両親の不和をはじめ、家庭環境的な要因が考えられる場合には、カウンセラーなど専門家に相談することがよいでしょう。家庭の問題は、複雑で根が深いことが多いからです。
【不登校の理解3 発達時期からみた理解の仕方について】
次に、年齢(発達時期)別に不登校を考えてみます。
●園児〜低学年(母子分離不安)
園児~低学年の子どもの場合は、不登校の背景に「母子分離不安」が存在している場合が多いです。「母子分離不安」とは、子どもが母親から離れる際に抱く不安のことです。お母さんと別れる際に生じる不安が強いために、適当な理由をつけては、学校を休もうとしたり、行き渋ったりします(登校渋り)。そうすることで、お母さんと一緒にいようとしたり、お母さんの関心をひこうとしているのです。
母子分離不安の場合は、お母さん自身の気持ちの落ち着きが重要です。お母さんの不安が強いと、子どもの不安がさらに増大してしまい、ますます子どもがお母さんから離れにくくなるからです。
❼母子分離不安が疑われる場合には、その不安がどこから生じているのかを理解することが、まずは重要です。
母子分離不安は、さきほどのように、お母さんの不安が大きな要因である場合もあるのですが、たとえば、兄弟がいる子どもや、甘えるのが下手な子どもの場合には、お母さんと一緒にいたいと強く思っている可能性があります。学校を休んだり、行き渋ることでお母さんとちょっとでも一緒にいようとしているのです。ですから、長男長女などの下に兄弟がいる子どもの場合には、赤ちゃん返りがあったかどうかを振り返ることが重要です。下の子が生まれたときに赤ちゃん返りがうまくできずに、そのときの欲求が登校渋りに繋がっていることが多いからです。
この場合、❽登校を渋る子どもと2人で楽しく過ごす時間をできるだけつくり、朝は登校に付き添い、徐々に付き添う距離を短くしていく(スモールステップ法)方法が有効です。また、本人が抑えこんでいた欲求や感情を言葉で表現できるように、声かけを工夫していくことも有効です。
また、低学年の子の場合は、学校でうまくいかないことが多くて、お母さんにくっつくことで、不安な気持ちを和らげようとしている場合もあります。
この場合は、❾学校の先生と連携しながら、安心して楽しく学校生活を送れるように、家庭や学校で達成感を育み、自信をつけるよう取り組むと良いでしょう。
これらの対応は、園児~低学年児童などの比較的幼い子どもの場合に有効です。学校を休ませるよりも、学校まで送り、学校の先生に接し方などを工夫してもらうことが基本の対応と言えるでしょう。
●高学年の場合(主体性の育み)
子どもの成長には個人差もあるので一概に言えませんが、一般に5年生以上の子どもの不登校の場合は、主体性、自立の問題を考える必要が出てきます。
5年生は「前思春期(ぜんししゅんき)」という、非常に繊細な時期に入ります。「子どもとしての”純粋さ”がピークに達する時期」と表現してもよいでしょう。この時期の子どもは、大人の理不尽な言動や行動が大嫌いです。そのため、大人に対して反抗的になり、意見を言うことが目立ってきます。
このとき、親と子が対話できるような関係であればよいのですが、子どもが自分の意見を言えるほどに主体性が育っていなかったり、親が子どもの意見や考えを頭ごなしに否定するといった関係の場合、この時期につまずく場合があります。
また、親子関係に関わらず、昔から“良い子”をしてきた子どもも、この時期につまずく場合があります。子どもが“良い子”で親の期待が強い場合、子どもは本来の自分(の気持ち)を意識無意識的に抑えこんでしまっている場合があります。親としては、「この子は自分の気持ちを表現できている」と思っているのですが、実際は、子どもは「親の期待に合わせて、本当の気持ちとは違う返事をしていただけ」という場合もあるのです。カウンセリングで子どもの本音を初めて知り、「あんたそういう風に思ってたん?知らんかったわ」とびっくりされる親御さんはよくおられます。
この時期の不登校の対応は、子どもの主体性を育むことが大切です。主体性とは、自分の足で自分の人生を歩むこと、自分の意志で登校すること、です。ですか、低学年の頃のように、無理に登校させるのは考えなおす必要があります。
主体性を育むコツは、➓本人の好きなこと(たとえゲームといえども)を大切にし、自己決定を尊重することです。手をさしのべることを控え、たとえ親の考えが正しくても、親の考えを強く述べることは控えるようにします。「そこまでしないといけないものなのか」「怒って当然でしょ」「子どもに気をつかうなんてめんどくさいわ」などと思われるかもしれませんが、この時期の子育てにおいては、非常に大切な姿勢です。
アニメを見ない、ゲームをしない、という方には分かりにくいかもしれませんが、子どもの好きなアニメやゲームというのは、その子の住んでる心の世界や世界観、価値観などを表現しています。ですから、好きなアニメやゲームを否定することは、子どもの人格を否定することに直結しやすいのです。
●中学生(本音でぶつかる)
中学生ぐらいの時期になってくると、子どもの気持ちを理解することが大切である一方で、「いけないことはいけない」と伝え、“壁”になってやることも重要になってきます。親が物分かりが良すぎてもよくありません。
子どもは親とぶつかるなかで、親とは違う自分を育んでいきますから、親がぐらぐらしていては、子どもは自分を育むことが難しくなってしまいます。ですから、「学校に行きなさい!」と押し出すことは必ずしも間違ったことではないのです。「学校に行きなさい!」と言うほうが、親自身にとって、自分の気持ちに正直になって子どもと接することができているのであれば、我慢せずに言うほうが良いときもあります。中途半端に我慢して、イライラして過ごすことのほうが、事態が煮詰まりやすく、不登校状態が進展しないからです。中途半端が一番よくないと言えるかもしれません。ただし、私は無理に押し出したり、「行きなさい!」と言うことをススメているわけでは決してありません。❶❶親が自分自身の感情に正直になり行動したほうが、結果として、本当の意味で、子どもを受け入れることができるからです。
※【不登校関連記事】2017/08/12の記事「エネルギー論」と「心のデトックス」ー心の不調の処方箋ー においても、不登校の一般的な経過と、エネルギー論からみた対応について、分かり易く記載していますので、是非お読みください。
【不登校の理解4 「主体性の表れ」としての不登校】
高学年以降の不登校の場合、不登校が「主体性の表れ」として理解できる場合も少なくありません。
あるとき、長引く不登校に耐えかねた親が、子どもに「あなたが学校にさえ行けば皆が笑顔になるのよ」と言いました。それに対し、子どもは「それは私の人生じゃない」と言いかえしました。
この親子のやりとりは非常に象徴的です。子どものこの言葉は、「今までは、お父さんお母さんに言われて学校に行っていたけど、これからは、自分の人生のために、自分の足で学校にいく」という宣言であり、この主の不登校は、「親の価値観、世界から脱却し、自分を育んでいきたいとする主体性の表れ」として理解できます。このように、表面的にはつまづきに思える不登校も、実は「主体性の表れ」であったりするなど、子どもの成長として理解できる場合も少なくないのです。
【プレイセラピーやカウンセリングのススメ】
子どもの主体性の要因は、大体どのような不登校ケースにおいても、程度の差はありますが、絡んでいます。環境要因にだけ着目してしまうと、「なんだか根本的なことが抜けているんじゃないか」と心配になることは、おかしいことではありません。
子どもの主体性の育みを大切に考えた場合、低学年の子どもならプレイセラピー(遊戯療法)が、高学年以上の子どもならカウンセリングが有効です。スクールカウンセラーの利用をはじめ、各市町村にある教育センターのカウンセリングやプレイセラピーを利用すると良いでしょう。
【不登校の理解5 子どもの能力や特性を考える】
発達障がいなど、能力面での困難がある場合は、まずは、本人の学習状況やコミュニケーション能力に関して適切な理解が必要です。また、本人の価値観や純粋さ、感受性や正義感の強さ、こだわりの強さなどが不登校に繋がっている場合も少なくありません。そのため、不登校対応の際には、まずは子どもの能力や特性について、理解を深める必要があるでしょう。
実際私が出会った登校渋りをしていた小学1年生の男の子は、先生やお母さんの「〜しなさい」という命令口調に敏感に反応していることが分かり、学校と家で口調に配慮してもらった結果、スムーズに登校できるようになりました。ここで、普通は先生や親が子どもに「〜しなさい」と言うのは当たり前ですよね。しかし、この男の子は、そこに強いこだわりをもっていたのです。「命令口調は当たり前なので配慮しません」という対応もあり得るのですが、もし配慮しなかったのなら、きっと登校渋りは長引いたでしょう。その男の子は、スムーズに登校できるようになった結果、ほめられることも多くなり、自己肯定感があがってくると、命令口調も次第にききながせるようになっていきました。
このケースのように、不登校の対応は、その子の能力や特性に応じて、学校や家庭で、環境や対応を整え工夫していく必要があります。
【不登校の親の気持ちに寄り添って】
以上のように、不登校の状況は多種多様です。
不登校の対応には、本人に対する適切な理解と本人にあった個別的な対応が求められます。ですが、そうとは理解していても、親としては一生懸命に対応してきたけれど、「どうしてよいのかわからない」「将来が心配で仕方がない」と困り果て、時には悲しみに暮れている保護者の方も少なくないのではないでしょうか。
子どもの不登校は、親にとって非常にショックです。人によっては、親自身の人生の一部を失うような体験であったりもしますから、悲しい気持ちに囚われても、何らおかしなことではありません。そこに、周囲の無理解が加わると、親としては本当に遣る瀬ない気持ちになり、どこにも吐けない怒りが、子どもに向くこともあると思います。
また、子どもが普通に登校している家庭をみて、「なぜ当たり前のことが我が子はできないんだ!」と落ち込み、イライラすることもしばしばだと思います。
ですが、皆さんもすでに分かっているように、子どもを責めたてているだけでは事態は改善しませんよね。煮詰まった状態や悪循環から抜け出し、事態を好転させるためにも、まずは専門家に相談してみることです。対応方法はいくつもありますから、納得のいく助言が得られるまで、複数の専門家を尋ねてみましょう。信頼できる専門家に話し、一緒に考えていくことで、ストレスの発散になったり、イライラがおさえられたり、視点がかわったり、実効性のある対応が見つかることでしょう。そのなかで、親であるあなた自身や、周りの家族が本人以上に成長変化していることもあるのです。
【不登校の要因は推測できても、原因は分からないことが多い】
不登校の理解と対応について、簡単に解説してきましたが、不登校はいくつもの要因が複合的にあわさっている場合が多く、専門家でも分かり難いことがあります。ある中学生の男の子は半年ほど不登校になっていて、あるとき担任の先生に私の下に連れてこられ、私はその男の子とトランプで遊びました。トランプ遊びを8回(週1回)ほどしたのですが、「先生のおかげで元気になった。次からカウンセリングにはこーへん。ありがとう!先生!」と言ってカウンセリングを卒業し、安定して登校できるようになりました。
このように、不登校からの回復の過程は、よく分からないこともあります。子ども自身もなぜ自分が不登校になったのかよく分かっていないことも多いのです。ですから、原因追及するよりは目的的に対処していくほうが、建設的で幸せなのです。
【終わりにー子どもの小さな声に寄り添ってー】
私が出会ったある中3の男の子は、小学校低学年の頃にいじめにあったことをきっかけにずっと不登校になっていました。中学生になり、担任の先生が登校をせかすことなく、丁寧に本人とお母さんとの関係を育んでいきました。そして、中3になり、担任が本人にカウンセリングを勧めたところ、「行ってみる」と答えたため、私のもとにやってきたのでした。彼は私とのいろんなやりとりを経て、自分もなんとかしたいと思っていることを、小さな声で話してくれました。私は、彼が自分の進路や将来をなんとかしたいという想いをもっていることを話してくれたことに感動し、担任の先生とお母さんと相談することを伝えました。そして、担任の先生と相談し、少人数で勉強できる環境を学校内に整え、お母さんと登校方法を整え、彼はなんとか登校できるようになりました。登校できるようになったことで、彼は達成感と安堵感を感じ、みるみる表情がよくなっていきました。そして、無事に進路も決まって卒業していったのです。この彼の不登校からの回復は感動的でしたが、その回復を支えたのは、なによりも彼自身の「なんとかしたい」という想いでした。
不登校の多くの子が、一見何も考えずに好きなことをして過ごしているように見えても、内心は将来のことをとても心配し、不安になっています。しかし、それをうっかり口に出してしまうと、無理矢理行かされたり、親を期待させて結局がっかりさせてしまったり、怒られるのではないかと思っています。
不登校からの回復には、子どもが安心して将来の不安を表現できること(できる場所)が重要です。そのためにも、たとえ学校には行けてなくても、将来を不安に思う子どもの気持ちは否定せずに大事にしてあげてくださいね。
子どもの不登校からの回復は、親にとっては大変忍耐を要することです。時には180度価値観を変える必要もあるかもしれません。もし不登校でお困りの方がおられましたら、あきらめる前に、是非一度ご相談ください。
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2017-09-11「不登校」その理解と対応(2017.9.11改訂)